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第5章―1 1938年春の米内家の騒動とユダヤ人問題の余波

 新章の始まりになります。


 尚、この章は基本的に米内洋六少佐の家のホームドラマめいた話で、5話で終わる予定になります。

「お父様、私の話をキチンと聞いておられますか」

「うん、聞いている」

「私という許嫁がいながら、浮気をするとは許せません。厳重に叱って下さい」

「言っておくが、正式に結納を交わした等の事情が無い以上、娘のお前は許嫁とは言い難い気が」

「お父様も、私と兄上が結婚したいと共に言うのを祝福しました。海軍軍人が言葉を違えるのですか」

 

 1938年4月半ば、米内洋六少佐は、娘の藤子と向かい合って、そんなやり取りをしていた。


 さて、1937年11月に命辛々といってもよい状況下で、上海からの脱出に、米内少佐は他の上海海軍特別陸戦隊の面々と、更には上海からの脱出を希望した数千人規模のユダヤ人と共に成功していた。


 尚、細かいことを言えばの話になるが、当時の上海に在住していた全てのユダヤ人が、上海海軍特別陸戦隊の面々と共に脱出した訳では無い。

 当時の事情から、それこそ命あっての物種ということで、上海から脱出したユダヤ人ほぼ全てが、着の身着のままでの脱出を行わねばならなかった。

 とはいえ、日本に脱出できた後、そんな状況下で生活できるのか、という不安を覚えた面々が、それなりにいたことから、半数近いユダヤ人、その殆どが成人男性が、上海に残ったのだ。


 彼らの多くが危険分散の観点から、そうした決断を下したのだ。

 彼らにしてみれば、まずは年老いた両親や妻子を、日本で確実に生き延びさせよう、上海に自分達が残ったからといって、確実に殺されると決まった訳では無いのだから。

 上海情勢が落ち着いた後、上海が危険ならば自分達は逃げれば良いし、上海が安全ならば改めて家族を呼び寄せよう、何しろなけなしの財産は上海に残さざるを得ないのだから。

 そんな思考を、殆どの上海在住のユダヤ人はしたのだ。


 だが、結果的に言えばだが、上海に残ったユダヤ人は、ほぼ全てが「上海事件」で殺戮された。

 実際に中国国民党政府の公式発表上、「上海事件」直後には上海にユダヤ人は存在しなくなっていた。


 さて、ここで「上海事件」という言葉が出て来た。

(この世界の)盧溝橋事件勃発から第二次上海事変勃発に伴い、上海共同租界を主な舞台として、上海市及びその近郊では、日本軍と中国国民党軍が、ほぼ3か月に亘って激闘を繰り広げることになった。


 そして、その期間の間、上海市、特に上海共同租界においては、中国国民党軍(及びそれを支援するドイツから派遣された軍事顧問団)は、上海在住の民間人(その多くが中国人だったが、それなりの外国人も含まれていた)に対し、日本軍に協力した「漢奸」等の容疑を積極的に掛けては処刑したのだ。


 特に酷くなったのが、上海共同租界を中心とする一帯から、日本の上海海軍特別陸戦隊が完全撤退を行った直後の時期であり、上海在住のユダヤ人の多くが身の危険を感じて、日本に脱出したことに、

「ユダヤ人を始めとする外国人が、日本に積極的に協力したのが明らかになった」

という難癖を付けて、ユダヤ人を除いても、米英仏等の外国人が数十人単位で殺戮された。


 更に中国人に至っては、数万人は確実に超えるだけの死者が上海では出たとされている。


 この中国国民党軍が行った殺戮事件が、「上海事件」と一般には呼称されている。


 そして、米英仏等の政府は、この「上海事件」について、流石に公式な厳重抗議を行い、宣戦布告も辞さないとまで言ったが。

 実際に中国本土で泥沼の戦争をするまでの覚悟は、米英仏等の政府には無く、中国国民党政府の形式的としか言いようが無い謝罪を受け入れるしかなかったのだ。


 ともかく、そうした事情から日本本国にユダヤ人が数千人単位で住む事態が起き、更に米内家とユダヤ人が知り合うことになっていた。

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中華民国政府(国民党)の大失策。上海に芽生えつつあった「華人資本家」「工場労働者」「中産階級・(西洋的)知識人」みな、中華民国政府(国民党)に完全に愛想を尽かす。最初から中華民国政府(国民党)を信じて…
 (´⊙ω⊙`)出だしの米内家の騒動も気になるけど上海から海軍陸戦隊と言うそれなり以上の武装組織が消失した結果の北斗の拳めいた世紀末な状況の酷さに目が点な読者、コレって国民党による組織だったモノじゃな…
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