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第4章―10

「余りにも状況が不味い」

 そういった想い、考えが、1937年8月末の上海周辺の日本陸海軍の面々の間では、完全に漂うようになっていた。


 北京(北平)や天津等を中心とする華北方面では、それなり以上の優勢を何とか日本側が確保しているようだ、と日中双方が考えている戦況にある。


 だが、上海周辺の戦況は、完全に真逆で中国側が優勢裡にある。


 上海近郊に上陸する日本陸軍支援の為に、日本海軍の第一航空艦隊、空母3隻を中心とする艦隊が急きょ編制されて投入されたのだが、結果的に二重、三重の任務を課されることになった。


 即ち、上海近郊に上陸する日本陸軍を直に支援せよ、又、上海市街で戦う上海海軍特別陸戦隊の支援も実行せよ、更には、中国国民党軍の飛行場を攻撃する等の行動を行うことで、日本側の制空権確保の活動にも尽力せよ、との任務が課されたのだ。


 確かに、日本陸海軍が優勢裡に中国国民党軍と戦うことを考えるならば、どれも重要な任務であり、どれ一つ手を抜かずに任務を遂行しろ、と言われても当然のことではある。

 だが、幾らこの当時では世界有数と言える、空母3隻を集中運用して戦場に投入することを行っているとはいえ、搭載機を全て合わせても200機には到底満たない、第一航空艦隊がそういった三重の任務をこなせるのか、と言えば。

 事情を知る人程、とても困難というよりも、不可能です、という事態が起きるのは当然だった。


 更に言えば、この時の中国国民党の空軍部隊は、敢えて割り切った行動を執っていた。

 日本海軍の第一航空艦隊攻撃を第一任務として、日本陸軍や上海海軍特別陸戦隊を攻撃する中国国民党の陸軍部隊の支援を全く行わなかったのだ。


 それに対して、二重、三重の任務を同時並行的にこなすことを、第一航空艦隊が求められては。


 この後に起きたことは、後から振り返れば必然だった、と言われても仕方のないことだった。


「龍驤が沈没、加賀が大破しただと。間違いないのか」

「間違いありません。地上支援を行おうと、航空隊を発艦させようとした隙を衝かれました」

「無傷だった鳳翔と、大破した加賀はどうしている」

「共に日本本国、具体的には佐世保に向かっているとのことです。幾ら何でも、鳳翔1隻で地上支援任務等を行っては、鳳翔も失われかねません。尚、不幸中の幸いと言っては、語弊がありますが、加賀は何とか自力航行可能で、10ノット程を出すのが精一杯ですが、何とか帰港できそうとのこと」

 8月末に上海海軍特別陸戦隊の幹部が集って行われている会議の場では、そういったやり取りが行われた末に、騒然とした空気に包まれる事態が起きていた。


 その会議に参加している米内少佐は、舌打ちする想いしかしなかった。

 確かに空母3隻を集中運用するというのは、画期的な発想で、更に成功する可能性もあった。

 だが、だからといって、様々な任務を同時並行的に遂行することを求められては、第一航空艦隊が大損害を被る事態が起きるのは、半ば自明と言っても過言では無かったのではないか。


 実際、後で米内少佐に分かった事情も合わせて説明するならば。

 苦戦している日本陸軍を支援しよう、更に上海海軍特別陸戦隊も支援せねば、ということで、航空隊が出撃していた結果、第一航空艦隊の防空を担当する戦闘機は10機もいない状況だったところに、中国国民党空軍による100機近い空襲が行われたのだ。


 そして、多勢に無勢で、中国国民党空軍の空襲を阻止することは出来ず、第一航空艦隊は大打撃を被ることになった。

 その責任を取って、永野修身連合艦隊司令長官は辞任を表明して、予備役編入処分が下されたとのことだが、それで当面の前線の状況が良くなる訳が無い。

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― 新着の感想 ―
 上海前面での活発な攻勢に敗色濃厚な陸軍部隊を援護するべく大きく踏み込んだ第一航空艦隊に待ってましたとばかりに航空戦力のありったけを叩きつける国民党&ドイツコンドル軍団(´□` )完璧な釣り野伏せに“…
 コレは陸戦隊は兎も角、陸軍は撤退すら出来ない。沖に戦艦を何隻並べたって徴用船舶や艀が近寄れ無いって事実に変わりはないんたから。  8月の夜の長さじゃ夜逃げも無理だ。
空母運用がアメリカ式分散になりそう。
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