第29章―10
さて、第251航空隊の面々を率いて、ユダヤ人航空隊に対する道場破り(?)を行なった笹井醇一中尉だが、1941年末を前にして、懸命にユダヤ人航空隊から教わったサッチウィーブ(?)を、第251航空隊に教えることになっていた。
そして、笹井中尉に加えて、坂井三郎他のユダヤ人航空隊に赴いた面々も、笹井中尉に賛同して周囲に自らの経験等を伝えて、サッチウィーブ(?)の威力を、自らが操縦して教えたことから。
第251航空隊内において、サッチウィーブ(?)は徐々に広まる事態が起きつつあった。
とはいえ、そう簡単に進むモノではない。
笹井中尉自身は、小園安名中佐から、
「中々良い経験をして、師匠(カテリーナ・メンデス中尉)から、指導して貰ったようだな。師匠の教えを、第251航空隊に良く伝えるように」
と激励されはしたものの。
この一月近い指導等を行っても、中々第251航空隊内に自らの教えが、速やかに広まらない現実について、色々と笹井中尉は考えざるを得なかった。
そして、いよいよ後数日で、1942年になり、更にはベルゲン周辺の飛行場に、自分達が赴くにも関わらず、サッチウィーブ(?)が、中々広まらない現実に、笹井中尉が頭を痛めていると。
それに目ざとく気付いた坂井三郎が、笹井中尉に声を掛けてきた。
「中々上手く行かないモノですな」
「全くだな。懸命に自分なりに教えているが、中々普及しないものだ」
笹井中尉は、自虐めいた答えをするしか無かった。
「二機一組、四機で一小隊という戦術さえ、欧州に赴いてから、自分達は学んだようなモノです。更に音声を使って、巧みに空戦機動を行なう等、更にどれだけの威力があるのか等、そう簡単に色々な意味で理解できるのには時間が掛かりますよ」
坂井は、笹井中尉を励ますように言った。
その声を聴いて、笹井中尉は改めて前を向いたが。
その一方で、坂井のかつての悪い噂を改めて思い出してもいた。
ユダヤ人航空隊に腕試し(?)に赴く前、坂井は名教官といえたが、後輩に対してキツイ態度でも有名で、一部の後輩からは蛇蝎のように嫌われていたらしいのだ。
だが、ユダヤ人航空隊との模擬戦闘で、自分と共に坂井は敗北し、それで、天狗の鼻をへし折られたことから、後輩に対する教育指導についての態度が、完全に改まる事態が起きたとか。
そう言った点からすれば、坂井はユダヤ人航空隊で良い経験をした、といえるのだろうな。
そんなことまで、笹井中尉が考えていると、坂井は爆弾を投下して来た。
「ところで、カテリーナ・メンデス中尉は、中々の美女でしたな。笹井中尉、結婚を申し込まれては如何ですかな」
「いきなり何を言う」
笹井中尉は、想わず坂井を怒鳴ったが、坂井の言葉は、笹井中尉の内心をえぐっていた。
実際、メンデス中尉は、自分が見る限り、いい女だった。
それこそ結婚したい、と考えた程だ。
だが、誇りが間違った方向に行っている、と言われそうだが、空戦で負けたままで、結婚を申し込む等、自分の誇りが許さない。
彼女との空戦に勝つか、それ以上の戦果を挙げた後で、彼女に求婚しよう。
そう笹井中尉は考えていたのだ。
「最も、メンデス中尉には想い人がいるらしい、という噂も聞きましたから。結婚するのも、色々と大変でしょうがね。最も、その想い人は既婚者だそうで、メンデス中尉は、それで悩んでいるらしいです」
「そうなのか」
坂井と笹井中尉は、そんなやり取りまでした後。
坂井は、笹井中尉の下を去って行った。
笹井中尉は、その後で改めて考えた。
メンデス中尉の想い人は誰なのだろう?
不倫は良くない、自分のことを見て欲しい、と言えば、メンデス中尉は自分のことを見てくれるだろうか。
作中でサッチウィーブ(?)と書いていますが。
正直に言って、私なりに悩んだ末の表記になります。
何しろこの世界では、サッチウィーブは誕生しておらず、カテリーナ・メンデスらのユダヤ人航空隊が磨き上げた戦術ということになります。
かと言って、メンデスウィーブとか書いたら、それはそれで分かりにくくなる、と考えた末の表記法で、緩く見て下さい。
そして、これで第29章を終えて、この後の5話を事実上の第3部のエピローグとなる第30章にして、各登場人物等の視点で描いて、第3部を終えます。
御感想等をお待ちしています。




