第29章―9
視点が変わり、米内久子の視点になります。
そんな事態が英本土で引き起こされているのを、米内久子はブルターニュ半島、ブレスト近郊に設けられている日本海軍の重爆撃機部隊が展開している飛行場において、自らは重爆撃機の整備をしつつ、噂話という形で聞かされることになっていた。
久子は改めて考えた。
様々に技量を磨き、後から日本本国から来た女性補助部隊の指導等を、積極的に自分から行ってきたこともあって、周囲から高評価を自分は受けることになった。
そうした背景があったことから、自分は間もなく、下士官で言えば最上位に近い曹長にまで(1941)年内に昇進見込みだが。
あの女、カテリーナ・メンデスはそれ以上に出世しつつあるようだ。
(久子は気づいていないので、この際に少し裏事情を明かせば。
海軍中佐である夫の米内洋六や、米内光政首相の遠縁になるということから、それなりの忖度が働いた結果、異例に近い出世を久子は果たす事態が起きていたのだ)
最も、あの女のこれまでの戦歴を、自分の立場では噂という形で知るしかないのだが、それだけの出世が認められるのも当然としか、自分が知る範囲では言いようが無い。
何しろユダヤ人航空隊の中では、文句なしにトップの撃墜王であり、英仏日等の連合軍全体でも、トップを争うレベルの撃墜王らしいのだ。
更に素晴らしい、といえるのが、直属の部下には未だに戦死者は皆無、という点だ。
(流石にドイツ空軍との空戦の際に、撃墜された部下が、延べでは複数いるらしいが。
それでも、誰一人戦死していない、というのは驚愕するしかない戦果だ、と自分でも考える)
これでは、日本陸海軍どころか、自分が聞き耳を立てる限り、英仏米等の航空隊でもアリエナイ話と言っても過言ではないが、年内に大尉に昇進して、自らの乗機を含めて16機が所属する戦闘機中隊の中隊長を、カテリーナが務めることになる、という噂が公然と流れるのも、当然のことか。
久子にしてみれば、自らの完全な邪推だった、と今では考えるようになってはいるが、そうは言っても夫の米内洋六の浮気相手だ、と考えていたカテリーナは、どうにも癇に障る女である。
更に言えば、自分よりも完全な上官と言える立場にあり、もしも相対したら、自分から敬礼しないといけない立場になる。
実際に違うのは、内心では重々承知はしているのだが。
そうは言っても、夫の愛人に正妻は敬礼すべきだ、と言われている感じがしてならず。
癇に障って、どうにも腹立たしい想いがする女だ、とカテリーナのことを、久子は考えていた。
そんな考えが浮かぶ一方で、久子にしてみれば、来年初頭には、日本の中島製のB17重爆撃機を、自分達が整備することになる、ということを色々と考えざるを得なかった。
自分が聞いた噂話だと、このB17重爆撃機のライセンス生産について、自分達の儲けが減るとして、ボーイング社は冷たい態度を執っており、ろくな指導も受けられなかったことから、中島飛行機は悪戦苦闘する羽目になったらしい。
そんなことから、中島飛行機はB17重爆撃機のライセンス生産の経験を活かして、独自に後継機となる「連山」の開発に乗り出す事態にまで至ったとか。
この辺り、どこまで真実と嘘が入り混じっているのか、と自分は考えざるを得ないが。
少なくともB23爆撃機より、B17重爆撃機の方が、様々な意味で高性能なのは間違いない筈だ。
そうしたことからすれば、年明け早々に日本の中島製のB17重爆撃機が、この地に届いて、独本土に対する戦略爆撃を行なうのを、自分は前向きに考えるべきなのだろうが。
その裏での色々な話を、自分が聞けば聞く程、色々と素直になれないのが現実だ。
そう久子は考えられてならなかった。
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