第29章―7
「向こうがそういう態度を執るのなら、遠慮することはない。こちらのやり方で戦おう」
笹井醇一中尉はそう坂井三郎達に言って、必勝法に近い高い高度からの逆落しの攻撃を仕掛けた。
実際にP39戦闘機と戦うのは、坂井達にしても初めてだ。
だから、特に異論を坂井達は差し挟むこともなく、笹井中尉の指示に従うことになる。
「三段跳びで落とせそうにも見える程だな」
降下しながら、笹井中尉は内心で呟いたが、メンデス中尉達の方が上手だったのを、すぐに思い知った。
「何」
降下することで加速が付いた攻撃の筈だったが、メンデス中尉達は巧みに横滑りに見える機動で、笹井中尉達の攻撃をかわして見せた。
更には二機一組になって、交互に攻撃役と囮役を務める、史実で言えばサッチウィーブとして知られる戦術を駆使して、笹井中尉達にメンデス中尉達は襲い掛かってきた。
「いかん」
笹井中尉は、すぐに自分達の失策に気付いた。
確かに二機一組、更に四機編隊での戦闘法を、自分達は学んではいるが。
ここまで二機一組が一体となっての戦術にまで、自分達は戦闘法を磨き上げていない。
百式戦闘機の格闘性能の良さを生かして、懸命にメンデス中尉達の攻撃をかわすのが精一杯に近い。
更に言えば、自分が海軍流に言えば若輩者なのが、メンデス中尉達には分かったようで、自分が真っ先に狙われており、坂井達はそれを援けようとしたことから、却って機動が読まれて、坂井達も苦戦を強いられる事態が起きている。
畜生という想いと、流石は連合軍でトップを争うエース部隊という想いが、笹井中尉の頭の中でぐるぐると回る事態が引き起こされた。
そして、10分程の模擬戦闘の末、
「そろそろ終わりにしませんか」
日本語の女性の声で言われて、
「ああ、そうしよう」
笹井中尉は、そう肩を落としながらに言って、坂井達に指示を出して、共に着陸することになった。
着陸直後、笹井中尉は、まずは坂井達に謝らざるを得なかった。
「すまなかった。自分が足を引っ張ったようだ」
「いや、あの戦術を知らなかった自分達も悪いです。何時か天狗になっていました」
坂井が他の二人の分も合わせて答え、三人は笹井中尉に頭を下げた。
「如何でしたか。我がユダヤ人航空隊の戦術は」
そこに日本語で声をメンデス中尉が掛けて来て、笹井中尉以下の4人全員は思わず敬礼し、メンデス中尉も答礼した。
実際にメンデス中尉の方が先任なので、笹井中尉達が先に敬礼せざるを得ないのだが、それ以上に4人は、メンデス中尉達の小隊の技量の高さに、敬意を表しない訳には行かなかったのだ。
ベルゲンに展開している日本海軍の戦闘機部隊の中でも最精鋭と自負してきたが、その誇りが女性のユダヤ人航空隊に砕かれるとは。
あってはならないことで、他の隊員から、
「女に負けるとは、それでも男か」
とバカにもされそうだが。
それなら、お前達がやってみろ、と反論してやる。
戦術を知らなかったら、自分達と同様の目にお前らも遭うだろう。
そんなことまで、笹井中尉は考えていると、メンデス中尉は更に言った。
「私達の戦闘機の特性を活かす為というのもあるのですがね。試しに予備機に乗られますか」
「宜しくお願い致します」
笹井中尉は思わず言い、その言葉に釣られて、坂井達までP39戦闘機に試乗して。
4人は1時間余り、P39戦闘機を操縦し、様々な空戦機動まで試みてみたが。
笹井中尉は、何時もの中高度での空戦機動をしてみると、P39戦闘機が百式戦闘機と比較して鈍重なのに驚くことになった。
それに対して、低高度だとP39戦闘機は機敏に機動を行なってくれる。
「成程」
笹井中尉は唸らざるを得なかった。
彼女達は巧みに機体特性を活かしている。
細かく言うと、この世界では太平洋戦争が起きていないので、サッチウィーブが誕生している訳が無いのですが、この辺りの描写を細かくすると、読みにくくなって、更に説明文に成るので、敢えてサッチウィーブと表記しています。
(この世界では、ユダヤ人航空隊、それもカテリーナ・メンデスが発想して磨き上げた戦術として、サッチウィーブは別の名、それこそメンデスウィーブ等の名で知られることになりそうです)
そして、笹井中尉達は臨時に4機編隊を組んで、メンデス中尉達に挑んだのに対して。
メンデス中尉達は完全に気心の知れた面々からなる4機編隊で戦っては、話中の描写になるのも必然ということでお願いします。
御感想等をお待ちしています。




