第29章―6
「宜しくお願い致します」
「うむ。日本海軍の戦闘機乗りの腕を、こちらも多くの者に見せたいと考えていた。お互いの空戦法を、この際に披露し合おうではないか」
「はい」
ユダヤ人航空隊の司令官は中佐であり、笹井醇一中尉にしてみれば、遥かに高位の士官である。
(更に言えば、笹井中尉は海軍兵学校を卒業してから2年程しか経っておらず、士官としては新人に近いと言っても過言ではない)
そんなことから、畏まった挨拶を、笹井中尉はまずはすることになった。
「ところで、模擬空戦訓練の際に、一つ条件があります」
「何でしょうか」
「我々は、基本的に地上襲撃機を護衛するのが任務なのです。従って、低空戦闘が基本です。高度二千メートル以下で、模擬空戦訓練は行うことにしたいのですが、それで良いですか」
「それは当然でしょう」
司令官と笹井中尉は、そう取り決めをして、模擬空戦訓練を行なうことになった。
そして、そんな挨拶を笹井中尉がしている頃。
笹井中尉に引率されて、ユダヤ人航空隊に赴いていた坂井三郎を始めとする3人の下士官兵は、改めてユダヤ人航空隊の現実に目を見張っていた。
「本当に女性の搭乗員がいるのだな」
「一応、区画を仕切ってはいるようですね」
「女性の搭乗員と言っても、お飾りと最初は考えていましたが」
「女性の整備兵は、補助部隊扱いとはいえど日本にもいるが、ユダヤ人部隊では実戦に赴く搭乗員にまで女性がいるとはな」
そんな会話を坂井達がこっそり交わしていると、一際目立つ美貌の女性が3人の視界内に入った。
「あんな女性が搭乗員とは勿体ない気が」
「笹井中尉と同年齢程と見たてますが」
「実際に階級章からすれば、中尉らしいが」
3人がひそひそ話を更にしていると。
「メンデス中尉」
その女性に、整備兵らしい女性が声を掛けるのが、3人の耳に入った。
更に、その女性が、整備兵らしい女性と向き合って話を始めたことから、3人は目を丸くした。
「あれがカテリーナ・メンデス中尉か」
「連合軍内でトップエースを争う女性が、あんな美女とは」
「何とも勿体ない気が」
そんな会話を3人が更にしていると、笹井中尉が司令官への挨拶を済ませてきて。
4人で揃って、改めて模擬空戦訓練を行なうことになった。
そして、その相手だが、言うまでも無く。
「それでは宜しく願います」
「はい」
カテリーナからの申し入れに、笹井中尉は直立不動で応じた。
笹井中尉にしてみれば、相手が悪いにも程がある、との想いさえ浮かんでいた。
坂井を始めとする面々から聞いた真偽不明の噂話からすればだが、
カテリーナは、スピットファイア戦闘機で百式戦闘機を打ち負かすのに初めて成功し、今でも欧州の空では、日本陸軍戦闘機乗りの第一人者と言われる加藤建夫少佐から一目置かれているとか。
数々の戦闘機を乗り比べた末に、一部の戦闘機乗りからは戦闘機失格との烙印まで押されたP39戦闘機を愛機にして、英仏日等の連合軍内でトップエースの座を争っているとか。
そんな噂話を聞かされているのだ。
更に言えば、こんな自分と同年齢に見える美女だったとは。
(細かく言えば、カテリーナは1916年生、笹井中尉は1918年生で2歳違い)
そんな想いをしながら、笹井中尉は3人の下士官兵と共に、カテリーナ達4人の模擬空戦に挑んだ。
そして、高度二千メートルまで急いで笹井中尉達は上昇したが、カテリーナ達は高度千メートル以下に止まる事態が起きた。
「何故だ」
笹井中尉にしてみれば、全く理解不能の行動と言えた。
高い高度から敵機を襲撃するのが、笹井中尉にしてみれば、戦闘機乗りにしてみれば必勝法の一つと言えるやり方である。
何故にカテリーナ達は、上昇しようとしないのか。
少なからずのネタバレになりかねませんが。
これまでにも描写してきましたが、カテリーナ達にしてみれば、低空戦闘こそが本領なのです。
その為に上昇を避ける事態が起きました。
又、ユダヤ人航空隊に笹井中尉と共に赴いた下士官兵ですが、坂井三郎以外は無名ということで、ご寛恕を平に願います。
そうしないと、幾ら何でも、と言われそうな描写に次話はなるのです。
御感想等をお待ちしています。




