第29章―5
そんな状況に、カテリーナ・メンデス中尉が所属するユダヤ人航空隊はあったのだが。
そうしたところに、第251航空隊から、ぶっちゃけて言えばだが、
「一手、御手合わせを願いたい」
という道場破りのような申し入れが起きていたのだ。
尚、言うまでも無いことだが、他の英空軍を始めとする複数の航空隊にも、第251航空隊は同じ申し入れを積極的にしている。
これに対して、色々と理屈をつけては断る航空隊も、それなりにあったのだが。
「面白いことを言って来るな」
ユダヤ人航空隊の司令官は、前向きになった。
「我が航空隊には、カテリーナ・メンデスがいるのを知っていて、申し入れをしてくるとは。第251航空隊の鼻っ柱を折れるかどうか、やってみる価値はあるな」
そして、ユダヤ人航空隊の返答を受けた第251航空隊では、大論戦が巻き起こった。
「俺が」
「儂が」
何しろ腕自慢揃いの第251航空隊の面々である。
それだけ、自らの腕に誇りを持つ者が多く、女性の操縦士がいるユダヤ人部隊の目の前で、自分の腕前を見せつけよう、という者が殺到する事態が引き起こされたのだ。
本来ならば、仮にも英仏日等の連合軍の中でもトップに近いカテリーナがいる部隊である以上、女に恥をかかされたくない、と消極的な者がでてもおかしくないが、そんな気の小さい者が、戦闘機の搭乗員になって、エースを争える訳が無い。
それこそ第251航空隊が総力を挙げて、腕試しではなかった、道場破りでもなかった、の為にユダヤ人部隊に押しかけそうな勢いを示す程の熱意が高まる事態が引き起こされた。
「ちょっとやり過ぎたかな」
小園安名中佐は、口先ではボヤいたが、内心では中々面白い、と考えざるを得なかった。
女性のユダヤ人部隊と模擬戦で勝てれば、改めて第251航空隊の面々の鼻っ柱は高まるだろうが。
もし、負けたら、改めて訓練等に身を入れることに、彼らはなるだろう。
更に考えれば、編隊戦闘の重要性、更にその際に音声会話が重要なのが、肚で分かりつつあるが、そうは言っても、長年に亘って染み付いている感覚が、そう抜け切る訳が無い。
第251航空隊の中でも、皮肉なことにベテラン程、単機戦闘を好みたがる傾向がある。
それに対して、ユダヤ人部隊は編隊戦闘を重視しており、特にカテリーナ・メンデス中尉の率いる小隊は、それを活かしていて、戦死者を出していないのが誇りだとか。
これは、面白いし、良い経験を第251航空隊にもたらすだろう。
小園中佐は、そこまで考えた。
そして、それぞれの腕で決めるべきだが、あいつより俺の方が、という面々揃いであることから。
「流石に全員で押しかけたら、相手にとって迷惑極まりない以上、これしかあるまい」
と小園中佐は、下士官兵の中かから希望者全員を懸命に説得した末にくじを引かせた末に。
それを引率する士官については、他の士官の希望を上官命令で押し潰した末に、
「お前が引率して行け」
「えっ、この中では、一番の新人士官の私がですか」
「そうだ。新人だからこそ、腕自慢の下士官兵どもに内心で舐められがちになる。これが出来れば、下士官兵も一目置くことになるだろう。序でに井の中の蛙に成る前に、大海を教えようと考えた次第だ」
そんな屁理屈を言って、笹井醇一中尉に3人の下士官兵を連れて、ユダヤ人部隊を訪問することを、小園中佐は命じることになった。
「分かりました」
笹井中尉の本音としては、荷が重すぎる、他の士官がすべきでは、と言いたかったが、小園中佐の主張も屁理屈と言えば屁理屈だが、全く筋が通っていない、とまでは言い難かった為に。
笹井中尉は3人の下士官兵を連れて、ユダヤ人部隊の航空隊を訪問することになった。
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