第28章―15
そういったじりじりと敵陣地を潰しての進撃を、日本海兵隊もユダヤ人部隊も、このスヘルデ河口近辺での戦いは行うことになった。
カルロ・メンデスにしてみれば、最初の数日で数えるのを止めており、周囲の兵からの問いかけに対し、
「もう数えるな。数えると嫌になるだけだ」
そうぶっきらぼうに答える程の敵陣地攻撃をしては、それを占領していく戦闘を行なうことになったのだ。
更に言えば、米内洋六中佐にしても、部下からの
「何時になったら、ワルヘレン島にたどり着けるのでしょうか」
という問い掛け、嘆きに対して、
「考えたくないな」
と手短に答えるように、数日でなる程の難戦だった。
とはいえ、味方の航空隊が制空権をほぼ確保している、というのは、日本海兵隊とユダヤ人部隊にとって、大きなアドバンテージだった。
その為に、全く無かった訳では無いが、ドイツ空軍による空襲を余り警戒せずに済んだからだ。
そして、仮にドイツ空軍による空襲があっても、速やかに味方の戦闘機が、ドイツ空軍機を追い払うのが通例にもなっていたのだ。
それを地上から見ているカルロ達は、味方の戦闘機にユダヤ人部隊のダヴィデの星が付いているのに、気が付いた場合に色々と考えざるを得なかった。
ダヴィデの星が付いた航空隊、空軍が、まさか誕生するとは。
ほんの数年前でさえ、誰も考えもしなかっただろうに。
更に制空権の確保は、守る側のドイツ軍にしてみれば、守備隊への補給困難を引き起こしていた。
戦闘を行わなければ、弾薬は消耗しないが、そうは言っても、毎日の糧食は必要不可欠だ。
そして、戦闘があれば、当然に死傷者は続出し、治療の為の医薬品等までも必要になってくる。
そんな感じで、補給物資を守備隊に送り込む必要があるのだが、この戦場となったスヘルデ河口周辺の地形は、水陸が入り組んでいると言っても過言ではなく、河岸等で物資の積み下ろしをせざるを得ないことが多発し、そうなると、どうしても補給物資の輸送に時間が掛かることになる。
更に物資の積み下ろしの時間は、部隊がほぼ動けないということであり、そこを鵜の目鷹の目で狙っている連合国側の襲撃機や戦闘爆撃機に襲われて、物資を失うことが多発すると言う事態まで起きるのだ。
勿論、夜間や悪天候時に物資を輸送等することで、そういった事態をドイツ軍側は少しでも避けようと努めるのだが、夜間や悪天候時に物資を輸送等することは、昼間の晴天時に物資を輸送するのと比較すると、どうしても効率が落ちることであって、ドイツ軍にしてみれば、頭が痛いでは済まなかった。
そうしたことが、スヘルデ河口部から、徐々にドイツ軍の守備隊を、オランダ方面へ更にドイツ本土へと引き上げさせる事態を、引き起こすことになった。
(尚、そのことが連合軍側に分かったのは、それこそ戦後の話であり、現場の将兵である米内中佐やカルロにしてみれば、目の前のドイツ軍をひたすら攻撃していくしかないという想いをしていた)
確かにスヘルデ河口部をドイツ軍が維持していれば、アントウェルペン港を連合国側は使用できない。
だが、ル・アーブルやマルセイユといったフランス本土の港湾施設は、徐々に復旧されつつあった。
そして、確かに最前線からは遠いが、そこから連合国側は物資を揚陸、輸送すれば済むので、アントウェルペン港を使用不能にしているという価値は、相対的にだが下落していく一方なのだ。
そういったことからすれば、スヘルデ河口部の守備隊を、少しでもドイツ本土の防衛に転用した方が、今後の連合軍の攻勢を防ぐのに役立つ、とドイツ軍上層部は考えることになり、最終的には半数以上の守備隊が、ドイツ本土へと向かうことになった。
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