第4章―6
最も実際問題として、日本が上海方面の地上部隊、具体的には上海海軍特別陸戦隊に対する航空支援を行うとなると、日本としては空母部隊を投入するしかないのは、自明の理でもあった。
何しろ渡洋爆撃が上手く行っていない現実がある。
それを打開するとなると、空母部隊を日本は投入するしかない。
更に言えば、この当時の日本陸軍航空隊は、原則的にであって、全く教育していなかった訳ではないが、主に地文航法を教育しており、天測航法を教育していなかった、と言われても過言では無かった。
この為に島伝いで飛行できる九州から台湾への飛行等は、陸軍航空隊にとって可能であっても、九州方面から上海方面への飛行となると、航続距離的には何とかなっても、陸軍航空隊上層部に言わせれば、不可能といって良い行動になってしまう。
そうしたことから、中国国民党空軍の面々やドイツから派遣された軍事顧問団の面々にしてみれば、日本の空母部隊が、上海方面で活動することは当然といって良いことであったし、日本側としても隠しようがない現実でもあった。
だが、その一方で、空母が集中されて運用される等の情報がダダ洩れになっているのは、やはり問題と言わざるを得ず、こうした問題点が、後に現場では噴出することになる。
さて、余りにも話が逸れすぎたので、上海市街における戦闘を、米内洋六少佐を中心にして、1937年8月20日頃における現状を描くならば。
「市街戦なので、兵力の多寡が、多少は相殺されているのが有難いな」
「それに、こちらの方が従前からいたので、上海市街の地図が頭の中にある面々が多いですからね。密かに間道や地下の水路を使って、側面や後方からの奇襲攻撃を行なうことが可能です。この状況ならば、後1月は余裕で戦えますし、その間に陸軍が駆けつけてくれますよ。そうすれば我々の勝ちです」
「全くだ」
中国軍の攻撃を何とか凌いだ後、部下の大山中尉と、米内少佐は表向きは明るく強気な会話を交わす一方で、米内少佐は内心では、今後について昏い予測をせざるを得なかった。
(この会話は、先程の戦闘で、戦友が死傷したことで落ちた、周囲の兵の士気を高める為でもあった。
更に言えば、大山中尉も米内少佐に内心では同意して、この猿芝居を行っていた)
米内少佐の把握している情報に間違いなければだが、ドイツから派遣された軍事顧問団員の一人、ライヘナウ将軍が直々に上海市街への攻撃を、事実上はだが、指揮しているらしい。
更に言えば、ライヘナウ将軍の指揮する中国国民党軍だが、その総兵力は補給等に当たる後方部隊を含めれば、20万人に達するとも聞いている。
ハッキリ言って、第二次上海事変が起こることに備え続けており、更に日本本国から臨時に海軍特別陸戦隊を編制しては、緊急増援として駆けつけてきてくれているとはいえ、こちらの兵力は6000名程に過ぎないのだ。
更に言えば、こちらは海軍特別陸戦隊であって、陸上戦闘の訓練をしてはいるが、ある意味では片手間の訓練を行っただけの兵が大半というより、殆どと言っても過言ではない。
それに対して、敵は陸上戦闘の訓練を、ドイツから派遣された軍事顧問団の下で、何か月も行ってきた精鋭部隊が、大半を占めると言えるのだ。
どう考えても、質量共にこちらが劣っている以上、抗戦するにも限度がある。
米内少佐の本音としては、1月も抗戦するのは、陸軍師団の投入無くして、不可能だろう。
最も、日本本国から急きょ、陸軍師団を向かわせるようだ、という情報が、自分の手元に届いているのも事実ではあった。
だが、制空権が中国側にある中で、陸軍師団が無事に上陸できるのか。
米内少佐はどうにも不安を覚えた。
ここでライヘナウ将軍が登場していますが、御都合主義では無く、史実でも中国国民党軍の指導の為に実際に派遣されたことがある、というのを踏まえた描写になります。
又、ライヘナウ将軍については、ライヒェナウ将軍という表記が妥当かもしれませんが、作者の私の我が儘から書き易さ優先にしているということで、平にご寛恕をお願いします。
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