第28章―11
カルロ・メンデスは、日本海兵隊から提供された95式折畳舟を眺めながら、色々と考えざるを得なかった。
本来ならば、それこそ手漕ぎ舟で櫓を漕いで進むのだが。
幾ら砲爆撃で、対岸のドイツ軍陣地に対する攻撃を行なった後とはいえ、そんな櫓を漕ぐような舟で渡河作戦を行なっては自殺行為だ、と自分も考えるし、上官も同じように考えたようで。
何処から調達したのか、自分には不明だが。
部隊内の噂を信じるならば、米国か英国の船外機を、日本流に言えば員数外の方法で調達したらしい。
そうしたことから、95式折畳舟に船外機を取り付けて、渡河作戦を展開することになっている。
「これが自分達の出来る精一杯か」
口には出さずに、内心でカルロは呟いた。
カテリーナ姉さんが前線で戦うことになった、というのを自分が知ったことから、姉が前線で戦うのに自分が安全な後方にいる訳には行かない、と母や妹を説得して、自分もユダヤ人部隊に志願したのだが。
実際にユダヤ人部隊の一員になって、兵員として戦うことになると、色々と自分の思い描いていた戦場と現実の戦場が違うのを、痛感せざるを得なくなっている。
それこそ初陣の際に、味方の航空機から爆撃を浴びる羽目にまで、自分はなったのだ。
そして、その際に直属の上官と言える分隊長や同僚達は死傷したのだ。
自分は憤る余りに、小隊長に自分達に爆弾を落とした航空機の搭乗員を銃殺して欲しい、とまで直訴する事態になったのだが。
小隊長の答えは冷徹なものだった。
「戦場ではよくあることだ。一応は上に伝えるが、戒告処分が精一杯だろう」
「何故ですか。味方を殺したのに」
と自分は言い募ったが、既に戦場を経験していた小隊長は、冷たく言った。
「それが戦場の論理だ」
その言葉の裏に、小隊長の戦場経験を察した自分は、それ以上は言えなくなった。
その後、自分はフランス本土解放で実戦を様々に経験することになり、遂にはベルギーのブリュッセル解放まで、上官や同僚達と共に果たす事が出来てはいる。
だが、まだまだ対ドイツ戦争、第二次世界大戦が終わる目途は立たないのが現実だ。
何時に成れば、この戦争が終わるのか、姉のカテリーナに手紙で愚痴ったことがあるが。
姉の答えは、ある意味では冷たいものだった。
「何時かは戦争は終わる、とそう考えて、目の前のことに対処しなさい」
実際、姉としても、そう考えざるを得ないのだろう。
自分からすれば、遥かに様々な意味で上にいる姉だが。
(何しろ空軍中尉であり、世界で公言されるような事態は起きておらず、いわゆる事情通の間にだけ知られていることだが、ユダヤ人部隊初の、更に世界初の女性の撃墜王なのだ)
そんな姉でも、この戦争が何時終わるのか等、情報が得られる筈がない。
そうしたことからすれば、姉にしても、そう自分に言い聞かせるしかないのだろう。
カルロは、そこまで考えざるを得なかった。
「ともかく、これで渡河作戦等を自分達は展開していくしかないか」
そう観念して、カルロは運河の対岸に目を向けた。
尚、対岸のドイツ軍の陣地には、大量の砲爆撃が味方によって浴びせられており、それを見る限り、砲弾や爆弾が着弾している辺りでは、誰一人生存者がいないようにさえ、傍からは見える。
だが、僅か2か月余りとはいえ、戦場を実見して来たカルロにしてみれば。
「所詮は花火よりはマシなだけ。実際にはドイツ軍の将兵の多くが生き延びているだろうな」
そう考えざるを得ないのが現実だった。
だが、それでも渡河作戦を行わざるを得ないのが、カルロの現実だ。
カルロは内心で愚痴りながら、95式折畳舟に自らが所属している1個分隊と共に乗り込んで、渡河作戦を実行することになった。
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