第4章―5
ともかくゾルゲは、表向きはドイツの為に情報収集をしているように装いつつ、実はソ連の為に情報収集をしていた。
そして、ドイツ政府に怪しまれないように、それなりに自分が得た情報の一部を、ドイツ政府に大使館員を介して流していたのだが、このことは(転生者である)カナリス提督にしてみれば、当然に把握されている情報でもあった。
更に言えば、尾崎秀実が近衛文麿首相の側近と言ってよい立場にまでなっていたことから、ゾルゲの下にはそれこそ日本政府、軍の最高機密に近い情報までが入手できるようになっていた。
そうしたことから、第一航空艦隊の編制は、近衛首相がそもそも隠すつもりが無かったことから、それこそ表向きは新聞の観測記事として報道される事態にまで至っており、更には尾崎を介して、それが真実なのがゾルゲに把握され、更にはドイツ大使館からドイツ政府に、中国国民党政府にドイツから派遣されている軍事顧問団にまで、情報が流れる事態が起きたのだ。
だが、こうしたことは、カナリス提督にしてみれば、余り良くないことだった。
それこそゾルゲの情報は、ドイツ政府等にとって有益だが、それ以上にソ連にとって有益だからだ。
その為に、カナリス提督は、自らゾルゲと話をしたい、とドイツ本国に招請することになり、更にそれなりの情報を添えて、ハイドリヒ保安警察長官にゾルゲにはソ連のスパイの疑いがあると告発したのだ。
この情報を得たハイドリヒ保安警察長官は、早速、様々な筋からゾルゲの身辺を調査して、カナリス提督の告発は真実の可能性が高い、と判断した。
更に、これを活用して、日本政府を大いに揺さぶってやろうとも、ハイドリヒ保安警察長官は考えるようになったのだが、そこまでのことをカナリス提督は考えもしなかった。
カナリス提督としては、近衛首相の側近、尾崎秀実がソ連のスパイグループの一員だったという醜聞を起こせば充分で、近衛首相にまで手を伸ばそうとは考えていなかったのだが。
ハイドリヒ保安警察長官は、近衛首相にまで手を伸ばし、日本政府を大混乱に陥れてやろう、と自らの考えを進めたのだ。
(少なからず、余談に近いですが、この際に補足説明をします。
何でカナリス提督が、ゾルゲをソ連のスパイとして捜査することができないの?
という疑問が起きそうですが。
私が調べる限り、この当時のドイツでは、こういったスパイの捜査は保安警察の任務でした。
そうした事情から、カナリス提督は保安警察長官であるハイドリヒに、ゾルゲのスパイ疑惑を告発して、捜査を委ねるしかなかったのです。
ですが、上記のような事情から、カナリス提督の思惑は、後で崩れていくことになります)
話が先に飛び過ぎたので、話を戻すが。
そういった事情から、中国国民党政府、軍支援の為に派遣されているドイツからの軍事顧問団に、日本の空母部隊が上海海軍特別陸戦隊支援の為に来る、という情報が把握されることになってしまったのだ。
そして、ドイツから派遣された軍事顧問団にしてみれば、日本の空母部隊は垂涎の的だった。
ドイツ空軍の指導を受けた中国国民党空軍が、世界第三位の日本海軍の大型艦、空母を空襲で沈めることに成功すれば、世界中が驚愕するだろう。
本来からすれば、戦艦を沈めることができれば、もっと大きな衝撃を与えることが出来る、と考えるべきかもしれないが、信頼できる航空魚雷が此処には無いので、それは望み過ぎで、空母を沈めれば充分、と割り切るしかあるまい。
そういった考えで、ドイツから派遣された軍事顧問団は、中国国民党空軍に対して、日本空母部隊の迎撃準備を進めた。
一方、日本側はそういった情報漏れを警戒していなかったのだ。
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