第28章―2
そんな想いを夫の米内洋六がしているのを、何となく妻として察したのか。
久子は別の話を始めた。
「考えてみれば、このフランスに私が赴いてからでも、1年が経つのですね。私達の子ども達、仁や藤子に早苗達はどうしているでしょうか」
「うん。仁は海軍兵学校生として頑張っているらしいな。藤子も高等女学校に入学し、正も小学校に入学して、皆が頑張っているらしいな。少なくとも、仁や藤子、それに小林家から送られてくる手紙を読む限りはそのようだな。お前のところにも、手紙がそれなりに届いているだろう」
「ええ、届いてはいますが」
夫婦はそうやり取りをして、お互いに少し無言で寄り添いながら、考えに沈んだ。
洋六は改めて想った。
仁は、この世界大戦が終わらねばだが、再来年の春には欧州に派兵されてくるだろう。
そして、自分と妻と長男が出征して、長女の藤子が、自分達の下の子ども達の面倒を見るのか。
そして、そんなことにならねば良いが、何となくの自分の悪い予感だが、ドイツを打倒したとして、日本に自分達全員が帰国できるような気がしないのだ。
この世界大戦が終わったとしても、欧州内部では様々な火種がくすぶっている。
更に言えば、ドイツとフランスという二つの欧州の大国が大打撃を被るのは必至で、英国だけでは手が回らないとして、日本にもそれ相応の負担が、引き続き求められるのではないだろうか。
勿論、一応は平時に復するので、大規模な駐在は不要だろうが、シンボルのような感じで日本から欧州への小規模な派兵は残される気が、自分はしてならない。
歴戦の本職の軍人として、其処までのことを洋六は考えた。
そして、妻の久子には、自分の考えを黙っておくことにまで、考えを進めた。
妻は一応は海軍軍曹の肩書を持っているが、所詮は補助部隊の所属なのだ。
平時に復すれば、必然的に動員が解除されて、家庭に戻れる身だ。
そして、自分の考えは杞憂に過ぎないかもしれないのだ。
妻を余り心配させるべきではない。
一方、久子も改めて考えていた。
周囲の話を聞く限り、仁が海軍兵学校を卒業する頃、1942年12月頃までに、この世界大戦は終わるかもしれないが、それで、欧州に完全に平和が訪れるとは考えにくい。
世界大戦が終結して、いわゆる平時に復したとしても、その後始末の為に、日本軍の一部が、欧州に残置される可能性はあるのではないか。
そうなった場合、自分は所詮は補助部隊の一員なので、日本へとすぐに帰国できるのだろうが。
本職の軍人である夫や息子は、日本に帰国できない気がしてならない。
更に深く突っ込んで考えるならば、ドイツを打倒すれば、第二次世界大戦は終わった、といえるのかもしれないが、それによって世界というか、欧州に本当に完全な平和が到来するのだろうか。
ユーゴスラヴィア王国の内戦というか、その内情は混迷を極めており、英仏日等の連合国は、どの勢力に加担すべきか、頭を抱え込んでいる。
更にスペインでは、当初は人民戦線が勝利を収めたが、徐々に共産党一党独裁国家、つまりはソ連と同様の国になりつつあるようで、国民の間に憤懣が溜まりつつあり、そういった状況から、一度は敗れたフランコ将軍が外国の支援を受けて、スペイン政府を握る為に武力侵攻を図っている、という噂が流れている。
他にもバルト三国やポーランド東部等、ソ連に言わせれば解放されて、自発的にソ連への帰属を殆どの住民が希望した土地をどうするのか、という問題まであるのだ。
(尚、このソ連の主張を、英仏米日等は全く受け入れずに批判しているのが現実だ)
久子は、どうにも口に出せずに考え込まざるを得なかった。
夫や息子は欧州から本当に帰国できるのか。
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