第28章―1 ベネルクス三国の解放を目指して
新章の始まりになります。
尚、私の悪癖から、最初の数話は米内洋六夫妻の話になります。
1941年8月末のある日、米内洋六中佐は、自らの部隊の再編の暇を縫ってブレストを訪れていた。
予め連絡を取っていたことから、妻の久子も休暇を取っており、ブレスト近郊の飛行場で夫婦は落ち合った後、主にブレストの街を散策して、共に憩うことにした。
「それにしても、休暇を取って良かったのですか。部隊の再編に忙しかったのでは。私の方は、今日は部隊の出撃が無いので、休暇を取るのに問題が無かったのですが」
夫婦で顔を合わせて早々に、久子は夫に疑問を呈した。
「うん。偶には女房孝行をしろ、と周りも言っていたしな。
それに、ぶっちゃけて言うと、再編云々以前の問題もある。
様々な食料等、動かなくとも日常的に減少していくモノが、前線に近づく程不足気味だ。
だから、動こうにも動きづらいのだ。
食料の一部を現地調達しているが、そもそも戦禍に遭っているからな。
食料の現地調達にしても、中々上手く行かない。
それに自分達の持っているのは、基本的に円だからな。
尚更に現地で食料等を調達するのも一苦労だ。
円ではなくて、ポンドでくれ、と大抵は売り手に言われてしまうらしい。
主計士官の面々が、それで苦労している」
洋六は、妻に愚痴りながら、長めに言った。
「それは厄介ですね」
久子は夫に寄り添って言いながら、自分なりに小耳に挟んだ噂話を思い出した。
1941年8月末現在、フランス本土の大半を連合軍は奪還している。
だが、その一方、連合軍でドイツ軍と対峙している最前線に近い部隊程、様々に補給に苦しんでいる。
その原因だが、フランス本土の被った戦禍によるものが大きい。
フランス政府としては、戦禍に遭った自国民を救援して、民心を安定させる必要もある。
その為に大量の民生品を、米英等からフランス政府は入手して、国民に配給する必要がある。
だが、そういった民生品を運ぼうにも、それこそ道路橋が壊されたり、鉄道が破壊されたりしている場所が多々あるのだ。
(更に皮肉なことを言えば、フランス本土を奪還する以前に、ドイツ軍に対する攻撃の一環として、連合軍の航空隊は道路橋や鉄道の破壊を大いに行ってもいたのだ)
その為に、道路橋や鉄道の復旧をしないと、民生品を運ぶどころではなく、これも又、連合軍の最前線の部隊が補給に苦しむ事態を引き起こしているとか。
一方、洋六だが、妻に愚痴りつつも、頭の片隅で、今の状況について、カテリーナ・メンデスから届いた手紙の内容を思い起こしていた。
カテリーナが愛機としているPー39戦闘機だが、結果的に低空での制空戦闘を主にしつつ、時折、地上攻撃に余裕があれば協力するという状況らしい。
そして、そういった任務の関係から、前線近くの飛行場に移転しているらしいが。
(尚、軍機と判断されたようで、具体的な地名が手紙には書かれていなかった)
前線近くということで、微妙に燃料等の物資が不足気味で、更に後方からの補給部隊の一部は、ユダヤ人部隊への理解に乏しいようで、ユダヤ人がタブーとしている食材、例えば、豚肉等を送ってくることまであるらしい。
そんなことから、飛行場近隣の住民に、物々交換として、そういった食材を提供する代わりに、小麦等の提供を受けることがあるとか。
更に言えば、多くの住民にとって、肉は貴重な食材として感謝されており、自分達が恐縮する程の小麦が提供されたことまであるとか。
そのお陰で空腹に喘ぐような事態は避けられているらしいが、カテリーナにしてみれば、何とも言えない状況らしく、補給部隊全てが、ユダヤ人の食のタブーを理解してほしいものだ、と愚痴っていた。
自分も彼女も、同じように食に悩むとはな。
その点、久子は食には悩んでいないようだな。
御感想等をお待ちしています。




