第27章―7
「しかしですな」
如何にも練達の官僚上がりの蔵相として、様々な数字を挙げて、この閣議の場の空気を換えようと、賀屋興宣蔵相は言い募ろうとしたのだが。
「元外務官僚としては仰る通りですが、国内外の世論は、又、別でしてな。本当に無理をして貰わないと困りますな」
吉田茂外相は、こういった閣議の場でも、相変わらず傲岸不遜に葉巻を吹かしながら言った。
賀屋蔵相は想った。
吉田外相は、確かに元外務官僚であるのは確かだが。
本当にその閨閥は華麗なるもので、それこそ下手な華族(公家)より上と言えるレベルだ。
(吉田茂の閨閥ですが、著名なことから説明を省略しますが、どうかご寛恕を、平にお願いします。
ネット検索すれば、すぐに出てきます)
そうしたことから、上から目線、悪く言えば市民を見下したような言説を言えるのだろう。
それこそチャーチル英首相と、ある意味では同様に近い。
(知らない方もおられると思うので、チャーチル英首相の出身を少し補足説明すると。
チャーチル英首相は、第7代マールバラ公爵の三男の長男になります。
そして、初代マールバラ公爵は、18世紀のスペイン継承戦争では、英国の名将、英雄として名を轟かせた存在なのです。
又、第7代マールバラ公爵の長男の第8代マールバラ公爵の息子は余り丈夫とはいえず、次男は早世したことから、一時、チャーチル英首相は第9代マールバラ公爵の最有力候補者だったのです。
(最終的には、長男の息子、チャールズ・スペンサー=チャーチル が成育したので、チャーチル英首相が、第9代マールバラ公爵になることはありませんでした)
ですが、こういった先祖の背景もあって、チャーチル英首相は人気を博すことになったのです。
(同時代の日本で、近衛文麿元首相が、名門出身ということから人気を博したのと似たような事案)
更に言えば、そうした出身もあったことから、史実ではチャーチル英首相の生前に、世襲公爵位を改めて叙位したい、という英王室からの意向まであったのですが。
チャーチル英首相が固辞した(自分の子孫が公爵に常に相応しいとは考えられず、それこそ英王室の御稜威を汚しかねない、として固辞したという噂があります)ことから、行われませんでした)
そんなことを、賀屋蔵相が考えていると、吉田外相は追い討ちを掛けるように長々と言った。
「ソ連政府に加えて、中国国民党政府や中国共産党の満蒙に対する食指の動かし方は、とても看過できない、警戒して警戒し過ぎないような状況なのです。最も、その三者の関係も微妙で、中国国民党政府と中国共産党は、完全に内戦状態にありますが。だからといって、日本にとって、満蒙利権、具体的には満州国の保全は、日本の国力維持に必要不可欠です。そうしたことからも、満蒙利権の庇護に役立つ、弾丸列車計画は推進する必要があるのです」
この吉田外相の言葉に、米内首相以下、閣議に参加している閣僚の殆どが深く肯いた。
賀屋蔵相は考えた。
この閣議の場でも、更には日本の輿論においても、私の主張は孤立無援か。
とはいえ、吉田外相の主張が間違っている、と私が論難しづらいのも現実なのだ。
中国本土の内戦は、あらゆる意味で酷い有様にあるが。
第二次世界大戦勃発に伴って欧州に派兵していて、そちらで国力を摩耗している日本が、その内戦に介入するのは思いも寄らないのが現実なのだ。
そして、そう言った状況だからこそ、安定している満蒙の状況は、却って中国国民党や中国共産党、更にはソ連政府からすれば極めて魅力的で、日本政府としては、どうにも気が抜けないのが現状なのだ。
そして、その満蒙の防衛となると、弾丸列車計画は必要不可欠と言っても過言ではない。
吉田茂とチャーチルの先祖の説明が違い過ぎ、とツッコまれそうですが。
チャーチルの先祖の初代マールバラ公爵は、少なくとも私の記憶の中では、高校世界史の教科書に出てこない存在だったので、話中の説明に入れました。
(でも、世界的には超有名人らしいです。
それこそフランスの民謡で歌われて、終には世界中で2番目に多く歌われる誕生日の歌の元歌にまでなった御方だとか。
余りにも日本では知られていない気がするのは、私がこういったことに無知な為でしょうか)
御感想等をお待ちしています。




