第27章―6
視点が変わり、同じ頃の日本の閣議が舞台になります。
そんなことをカナリス提督が考えていた1941年8月末頃、日本の東京でも、米内光政首相率いる日本政府は閣議を開いて、今後の世界情勢に対する方策、主にどのようにして、この第二次世界大戦を終結させていくのか、更にその後をどのように見据えて、日本政府は行動していくか、を討議していた。
「フランス国内の復興状況は、どのように考えている」
米内首相は、閣議に参加している面々に問い掛けていた。
「米国政府というか、米財界がそれなり以上に投資する意向を示しているので、何とかなる、と私自身は考えています。というか、日本に金を出してくれ、と言われるのなら、私は蔵相を辞任します」
賀屋興宣蔵相が即答し、それを聞いた多くの閣僚が苦笑した。
「それは困ったな。賀屋蔵相でないと、日本政府の財政は持たないからな。何しろ、先日、退役した山本五十六海軍大将と、かつてはロンドン海軍軍縮条約を締結しないと、日本政府の財政は破綻する、と啖呵を切った末に殴り合いの喧嘩をした程の財政通だからな」
米内首相が惚けたことをいうと、多くの閣僚が、その苦笑を更に大きくした。
実際問題として、戦争を遂行するとなると国の経済を回し、又、政府財政を維持するのは至上命題と言ってよいことになる。
そうした中で、何とか日本政府の財政が回っているのは、皮肉なことに大蔵省の官僚が悪戦苦闘しながら、財政破綻を防ごうと色々と苦心していることが一因で、賀屋蔵相は大蔵官僚出身ということで、後輩達を懸命に鞭撻している。
そして、日本の経済が回っている、もう一つの理由が。
「米国のレンドリースには、本当に感謝せざるを得ません。そのお陰で、軍事費をそれなりに抑えられています。何しろ、戦争を遂行するとなると、軍事費を確保する必要がありますが、軍事費は金食い虫もいいところですから。それで、浮いたお金を民生に回すことでも、何とかしています」
賀屋蔵相は、更に言葉を繋げて、それに多くの閣僚が肯いた。
実際、この世界大戦を遂行すると言うのは、日本の身の丈を超える代物だ。
本来ならば、満蒙を日本の力で守ると共に、満蒙が自立できるような投資まで、日本政府は行う必要があり、それに加えて戦争、それも世界大戦を遂行する等、正気の沙汰とは言えない。
幾ら賀屋蔵相以下の日本の大蔵官僚が奮闘しても限度がある。
だが、(この世界では)米国からのレンドリースによって、兵器等の調達費用が迎えられており、又、ユダヤ資本を中心とする世界の資本が、満蒙開拓に投入されていることから、日本政府の財政負担がそれなりで済む事態が起きているのだ。
とはいえ、それなりで済んでいるのも、又、事実ではあった。
「フランス本土復興の為のお金を出さずに済むのは有難いですが。本当にこんな状況下で、「弾丸列車」構想を具体化しろとか、正気の沙汰とは考えられない、と後輩達から突き上げられています。どうしてもやらないといけませんか」
賀屋蔵相はぼやくように言った。
(尚、史実の弾丸列車構想と、この世界の弾丸列車構想は異なります。
史実では満州事変勃発から、日中戦争激化に伴って具体化されましたが。
この世界では満州事変勃発から暫くは同様ですが、日中戦争が早期に終結したことから、一式戦車開発に伴って具体化されました)
「それはやってくれないと困る」
畑俊六陸相は冷たい口調で言い、その言葉に米内首相以下、多くの閣僚も無言で肯いた。
実際問題として、ソ連の満蒙に対する脅威は座視できない、というのが、この閣議に参加している面々の総意に近かった。
そして、ソ連の満蒙に対する脅威に対処するには、「弾丸列車」構想は大袈裟に言えば、必要不可欠だったのだ。
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