第27章―5
そう言ったことまでも考えるならば、スペイン等の情勢について、カナリス提督は、どうにも考えざるを得ないのが現実だった。
スペインでは、内戦の結果として、最終的に人民戦線側が勝利したが、その後で、共産党が人民戦線の主導権を徐々に確立することになり、スペイン政府は変質していった末に、ソ連と同様に共産党独裁政府が樹立されたと言っても過言ではない現状が引き起こされている。
そして、共産党独裁政府の常として、無神論からカトリック教会の建物が公然と破壊される等の事態が起きており、ローマ教皇庁はスペイン政府に対する非難声明を出す事態となっている。
更には、スペイン国民の間では、徐々に動揺が広まりつつあるとの情報が届いている。
これは、第二次スペイン内戦が起きてもおかしくない、とまでカナリス提督は考えてしまった。
更に、そこまでの事態になれば、バスク人の問題や、ポルトガルにも火の粉が飛びかねない。
カナリス提督は、そんな未来までも幻視してしまった。
だが、その一方で。
ルーズベルト大統領率いる米国政府が、米国内の世論もあって、第二次世界大戦に公然と参戦する態度を未だに示していないのが、カナリス提督にしてみれば、頼みの綱になっていた。
実際問題として、(この世界の)ドイツ海軍の現状から、(史実の)第一次世界大戦のような潜水艦作戦を、ドイツ海軍は展開するどころではないのだ。
その為に、アメリカ船籍の商船は、ドイツ潜水艦による被害が生じていない、と言っても過言では無いのが、(この世界の)現状になっていた。
更に言えば、史実と全く乖離している、この世界の日中関係もあるのだ。
その為に、裏ではこれまでの様々な行きがかりもあって、ギスギスしているとしか、言いようが無い日米関係ではあったが、少なくとも表面上は友好関係を、日米は保っており、原油等を積極的に米国政府は日本に供給するのを是認していた。
(これは、英仏等が日米関係を仲介している、という事情もあった。
英仏等にしてみれば、対独戦に積極的に協力して、陸海空の部隊を欧州にまで公然と派遣している日本は掛け替えのない同盟国と言えた。
それに対して、義勇兵の派遣や物資の提供等があるとはいえ、表面上は中立を維持している米国。
国内世論の視点からすれば、米国よりも日本に肩入れするのが、英仏等にしてみれば当然だった。
更に言えば、国際ユダヤ資本も、(この世界の)日本とユダヤ人の関係から、親日報道を積極的に支持する事態が起きてもいたのだ。
こうした裏事情が、少なくとも表面上は、日米の友好関係を積極的に維持させる事態を引き起こすことになっていたのだ)
更に考えて行けば、ドイツという共通の敵がいない一方で、米国内では反共主義を信奉する市民がそれなり以上にいることからすれば、ソ連政府と積極的に(この世界の)米国政府が連携を図る筈がない。
(実際に史実の第二次世界大戦後に、多くの冤罪を生んだ反共のマッカーシズムが、米国内では吹き荒れた程なのだ)
そして、現在の世界情勢からすれば、反ソ、反共の一点共闘から、英仏等を介して、日米がそれなり以上の連携を図る可能性さえある。
こうした世界情勢下で、どうやったら、ドイツに有利な講和が結べるだろうか。
それこそ、これまでの行きがかりから、仏政府を筆頭に、ドイツ政府や軍首脳部を国際軍事裁判に掛けると共に、ドイツの無条件降伏以外の講和は無い、というのが、英仏日等の連合国政府内では、徐々に共通認識化しつつあるという情報まであるのに。
カナリス提督は今の世界情勢を考える程に、どうにもならない状況にドイツは追い込まれつつある、と考えざるを得ず、頭を抱え込んだ。
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