第27章―3
カナリス提督は、ソ連政府の動向について、改めて考えた。
スターリン率いるソ連政府は、どう動くつもりなのか。
ソ連はバルト三国、及びポーランド東部を併合しており、現在はその統治体制を安定させることに勤しんでいるが、それだけでスターリンらは満足するだろうか。
ソ連は、結局はロシア帝国の後継国家なのだ。
自分の前世知識からしても、ソ連が拡張主義国家なのは間違いない。
だが、その一方で(この世界でも)「大粛清」が行われた結果、未だにソ連国内の混乱が完全に収まったとは言い難いようなのだ。
自分の知識からすれば、ソ連に言わせれば「大祖国戦争」、第二次世界大戦における独ソ戦は、皮肉なことにスターリン率いるソ連政府を、一時とはいえ救う事態が起きたと考える。
何しろ強大にして粗暴極まりない侵略、ヒトラー総統率いるドイツ等からの侵略が行われたのだ。
そして、それに抗戦するとなると、スターリン率いるソ連政府を、ソ連国内の住民達は積極的に支持するしかない事態が起きてしまったのだ。
「ドイツ人の東方生存圏確保」等の理由が積極的に掲げられており、その末にロシア人を始めとする東スラブ民族絶滅を目指している、と言われても仕方のない程の占領地政策を、ヒトラー総統率いるドイツ政府は、史実では行ったのだ。
そして、それに徹底抗戦しているスターリン率いるソ連政府の存在がある。
自分達が生き延びるためには、スターリン率いるソ連政府を支持するしかない、と多くのソ連の住民が考えて、ヒトラー総統率いるドイツ政府に徹底抗戦して、スターリン率いるソ連政府を積極的に支持するのも当然ではないだろうか。
更には、日米戦等の影響もあって、米国からのレンドリースがソ連に提供されて、更には米英等と共闘することによって、ドイツ及びその同盟国等からの侵略を、ソ連は排除することが出来たのだ。
そして、スターリン率いるソ連政府は、ドイツの一部を占領下に置き、又、東欧諸国を自らの影響下に置く事態にまで、最終的には至ったのだ。
こういった事態を、スターリン及びその後継者と言えるソ連政府は、とことん利用したと言える。
(更に言えば、その後継国といえるロシア共和国も、この事態を利用している気が、前世の自分の記憶からはしてならない)
スターリン率いるソ連政府は、第二次世界大戦後、欧州をファシズム、ナチズムといった独裁政治から解放する多大な功績を、自分達は成し遂げた。
ドイツを始めとする欧州諸国を、民主主義国家に「解放」するのに多大な貢献があった。
とスターリン率いるソ連政府は主張する事態が起きたのだ。
そして、その主張、喧伝が色々な意味で、ソ連の国内外で受け入れられることになり、それこそ数十年に亘って、ソ連や東欧諸国の住民の間では、
「ヒトラー総統率いるドイツ政府は、ナチズム、ファシズム政府であり、民主政治を否定していた」
「スターリン率いるソ連政府は、民主主義国家の一員として、ドイツや東欧諸国に民主主義を回復させるために多大な努力をして、「解放」を成し遂げたのだ」
という神話、伝説が蔓延する事態を引き起こしたのだ。
(何を言う、と叩かれて当然ですが。
旧ソ連等の共産主義国家の政府は、表面上は民主主義国家なのです。
国民の選挙に基づいて政府が構成される以上、旧ソ連等は民主主義国家と謳われます。
とはいえ、その選挙内容自体が、極めて眉唾というか、酷い代物なのですが)
だが、この世界では、そんな事態が起きるどころではない。
何しろ、ドイツ政府は、英仏日等との戦争に手一杯で、ソ連と戦争する余裕等は皆無なのだ。
そうした中で、スターリン率いるソ連政府が、ドイツと戦争を決断するだろうか?
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