第26章―3
他にも色々と四方山話をした末に、米内仁と藤子は小林家にたどり着いた。
そして、小林家の敷居を二人が跨いだところ、
「お久しぶりです」
と小林アンナは、二人に声を掛けてきた。
尚、アンナの横には夫の亨二もいる。
「こちらこそお久しぶりです」
藤子は如才なく返答しながら、仁にすぐに寄り添った。
藤子の本音としては、どうしてアンナが出迎えているの、というところだ。
そんな藤子の想いを無視するかのように、アンナは話を始めた。
「藤子さんも、仁さんも欧州の戦況が気が気でないでしょう。
私も姉や兄が無事に五体満足のまま、欧州の戦争が終わるか否か、気になります」
「本当にそうですよ。両親が無事に日本に還ってくるかどうか、気になって仕方がない。藤子も同じ想い、考えだよな」
「ええ」
アンナの言葉に、仁は即答して、更に藤子に答えを促し、藤子も短く答える事態が起きた。
尚、アンナとしては、藤子に全く悪意は無い。
藤子の真意(仁をアンナに取られたくない)を察してはいるが、自分にとって勿体ない夫、亨二を結果的に藤子が紹介してくれて、結婚に至ったのも事実なのだ。
そして、亨二は自分を溺愛してくれていて、自分も亨二を好きになりつつあるのだから。
そんな裏事情を敢えて無視して、アンナは更に話を進めた。
「フランス本国全土が、ほぼ完全に解放されたと言っても過言では無くなりつつあるようで、このまま行けば年内には、ベネルクス三国も解放されて、来年中にはドイツ本土への侵攻、ドイツ全土の占領と言う事態が起きるかもしれませんが、本当に早くそうなって欲しいですね」
「全くですよ。数か月でフランス本国全土が、ドイツ軍の占領下から解放されるとは、想像以上の早さでした。それだけレジスタンス等も、懸命に活動した、といえるでしょうね」
無言になった藤子の分までも、代弁するかのように、仁はアンナに言った。
尚、亨二は無言でアンナに寄り添っている。
亨二なりに、これまでの経緯や藤子らの態度から、アンナと藤子、仁の関係を何となく察しているのだ。
(尚、亨二としては、アンナと仁が関係を具体的に持っておらず、又、アンナにしても、仁を無視しているのを察しているので、このままやり過ごすと言うか、自分はこの関係を無視するつもりである)
「私の下にも、姉や兄から手紙が届いていますが、御二人の下にも、御両親から手紙が届いているのですか」
「ええ。届いてはいますが、言うまでもなく、上層部の検閲が入っていますからね。何処まで本音が書かれているのやら」
「そう言われればそうですね。姉は戦闘機乗りとして活躍しているようですが、兄は歩兵で色々と苦労しているようですね。そちらはどうですか」
「父は歩兵(海兵)から戦車乗りに転属したようで苦労しているようです。母は、重爆撃機の整備で機械油に塗れているようです」
「それは、また何とも言えませんね」
アンナと仁のやり取りは続いたが、二人のやり取りが仲良く順調に進んでいることから、藤子の機嫌が徐々に微妙になり出して、亨二は空気を読んだ。
「アンナ、そろそろ家に帰ろう。私の両親が待っている」
亨二は思い切って言い、アンナも我に返ると言うか、藤子の機嫌に改めて気づいた。
「そうですね。つい、藤子さんや仁さんと話し込んでしまいました。それでは失礼します」
アンナは頭を下げながら言い、それを機に藤子も少し機嫌を直して、
「いえ、こちらも余り相手をせずに失礼しました」
と穏やかに返して。
男二人は、内心でホッとすることになった。
そんなやり取りがあった横で、仁は改めて考えた。
本当にこの世界大戦は、どのように推移するだろうか。
自分の両親は五体満足で帰国できるだろうか。
尚、アンナと亨二が、仁と藤子を出迎えたように見えますが、偶々、アンナと亨二が小林はるの家に挨拶に来ていて、二人が帰ろうとしたところに、仁と藤子に出くわしただけです。
(小林亨二は小林はるの孫で、亨二は、はるからすれば長男になる実父の家に同居しています。
尚、現在のアンナは医学生として学生寮に入っており、夫婦は基本的に別居生活を送っていますが、今はお盆ということから、夫の亨二と一時の同居生活を送っています)
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