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第25章―15

 ドイツ軍によるル・アーブル救援作戦が中止された最大の理由だが、肝心のル・アーブルに籠っている守備隊全てが降伏したという事情からだった。

 最早、救出すべき守備隊が存在しない以上は、ル・アーブル救援作戦は中止されて当然だった。


 更に言えば、ノルマンディー、ブルターニュ半島の戦線で、英仏日等の連合軍と対峙していたドイツ軍部隊の多くが、退却というよりも、敗走に近い状態を呈しつつもあった。


 こうした状態が、西部戦線に展開しているドイツ軍部隊の転進、ベネルクス三国を確保して、独仏国境線沿いに新たな防衛線を展開しようという転進の動きを引き起こしており、こういった動きが、全般的に起きているのも、ル・アーブル救援作戦に投じられていた部隊を、こういった防衛線展開に投入しようという方向につながったのだ。


(既述だが、ドイツ軍にしても、文字通りに沿岸都市といえるル・アーブルを固守しようとしては、英仏日等の連合軍の艦砲射撃で大損害を被る危険を考えざるを得なかったのだ。

 そうしたこともあって、ル・アーブル救援作戦が成功したら、ル・アーブルの守備隊を撤退させるというのが、ドイツ軍の事前の作戦方針に成っていたのだ)


 それらが絡み合った結果として、英仏日等の連合軍最上部から、ル・アーブルを陥落させ、ル・アーブル救援作戦を断念させた日本海兵隊やユダヤ人部隊にどのような命令が下されたのか、というと。


「まずは、ベネルクス三国解放を、我々は目指すのですか」

「ああ、言うまでもないが、亡命オランダ軍や亡命ベルギー軍も協力する」

(主に)八原博道中佐からの問いかけに、南雲忠一中将は答えていた。


「フランス本国全土、特にパリを解放するのは、フランス軍の役割だ、とフランス軍の面々が強く言い張ったことから、そうなったらしいというのは、本当ですか」

「本当の可能性が極めて高いが、真実か否か調べようがないな」

 八原中佐の毒舌を、そのように言って南雲中将は韜晦した。


「確かに自国の領土、特に首都解放を他国に譲る訳にはいかないのが現実ですな」

 八原中佐は、鼻を鳴らすかのような口調で言い放った。


 理屈、感情論からすれば、フランス軍の主張は正しいが、八原中佐としては、

「何を言っているのだ。フランス軍がきちんと対独戦の準備を調えていなかったから、こういう事態を招来したのだろうが」

と批判したいのが本音で、その一方で流石に口に出す訳には行かない事態から、そう言っていた。


「ともかく、パリ解放だ、更にはフランス全土解放だ、とフランス軍が逸っているのが現実だ。そして、祖国解放と奮闘している彼らを批判する訳にはいくまい」

「その通りです」

 南雲中将は、八原中佐を宥め、八原中佐も同意するしか無かったが。


 南雲中将は想った。

 我が父祖が仕えた上杉家も、本音では越後に帰りたい、と江戸時代の間ずっと乞い願い続けたとか。

 それを考えれば、フランス軍がパリ解放からフランス全土解放を目指すのは、当然のこととしか、言いようが無いことだろう。


 更に考えれば、自分達と共闘しているユダヤ人達が、今は故郷とは本来は言えない、パレスチナの地に還りたいと考えるのも、それなりの道理があるように、自分には考えられてならない。

 とはいえ、それはそれで紛争のタネを引き起こすことになるのだが。


 そんなことまでも、南雲中将の脳裏では過ぎったのだが。

 

 それを無視して、戦況は動いていくことになった。

 ヒトラー総統は猛反対を貫いたと言っても過言ではないが、実際の戦況は、ヒトラー総統の主張を無視して動いていった。

 そうしたことから、ドイツ軍は、いわゆる独仏自然国境、及びベネルクス三国国境線へと撤退していったのだ。

 これで、第25章を終えて、次話以降は第26章になります。


 尚、第26章は少なからず時間が流れて、1941年8月のお盆頃の日本が舞台で、米内仁と藤子が主人公、語り手になります。

(作者の私が、様々な戦場等の描写に疲れてしまい、日常描写がメインになります)


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― 新着の感想 ―
>そうしたことから、ドイツ軍は、いわゆる独仏自然国境、及びベネルクス三国国境線へと撤退していったのだ。 概ね妥当と言うか、それしか合理的に見てやりようがない戦略ではありますが。独仏自然国境(の西側)…
ベルギーやオランダを亡命各国軍と合同で海兵隊が進むのですね。面食らうことになってしまうとかありそうですね。ベネルクス解放とかはオランダ空軍のフォッカー戦闘機が飛んでるとかですかね。 パリ解放はフラン…
史実の3年前倒しになって来ましたね。この世界ではドイツ陸軍にタンクエースは誕生したのかとか、パリを燃やせとやっぱりヒトラーが喚いたのかとか気になります。
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