第25章―12
米内洋六中佐の相手が、全く無名の相手ばかり、というのもどうか、と作者の私としては考えたことから、「戦車伯爵」を登場させることにしました。
ヒアツィント・シュトラハヴィッツ少佐(史実では、「戦車伯爵」の異名が与えられた名戦車指揮官)にしてみれば、これから挑むのは悪夢の戦場だった。
ドイツ陸軍のエリート部隊であるグロースドイッチュラント連隊指揮下の戦車大隊長として、ル・アーブル救援作戦の矛先を務めることになり、攻囲下にあるドイツ軍3個師団を真っ先に、自分の指揮する戦車大隊で救援するつもりだったのだが。
これが逆の立場ならば、自分は何とかして見せる自信がある。
自分の指揮下にある3号戦車は全て新型であり、42口径の50ミリ砲を装備しているのだ。
だから、日本の戦車が少々有力であっても、攻撃して来た戦車の側面等を狙い撃ちする等、様々な術策を用いれば、優秀な部下達のことだ、何とかするだろう、と考えるが。
だが、自分達が、敵の日本軍等を突破する立場にあるのだ。
つまり、自分達から積極的に攻撃せねばならないのだ。
戦車と言えど、万能の攻撃兵器ではない。
幾ら履帯等によって、ある程度の敵の障害、陣地等を踏みつぶせるし、少々の坂ならば登攀等ができるとはいえ、どうしても通れる地形には限度がある。
だから、地形を読んで戦い、機動戦を挑むのが本来なのだが。
「どのように見る」
「極めて厄介です。
敵の戦車の主砲は、自分達と同口径か、より大きいやも。それに陣地に籠り、基本的に砲塔部だけをこちらに見せるようにしています。
更に言えば、予備陣地も構築しているようですね」
自分の問いかけに対して、最も信頼している、第一戦車中隊長を務めるマイヤー大尉は、そのように即答してきた。
自分も同意見だ。
「歩兵と協働して敵陣地を攻撃するしかないか」
「自分も同意見です。
尚、相手は、日本海兵隊とユダヤ人部隊のようです。
桜に錨のマークと、ダヴィデの星のマークが部隊章として見受けられるとのこと」
「ふん」
グロースドイッチュラント連隊の一部、第三大隊にしてみれば、因縁の相手か。
マイヤー大尉とやり取りをしながら、シュトラハヴィッツ少佐は、更に考えた。
昨年の対仏侵攻作戦の一環として行われたベネルクス三国への侵攻作戦。
その際、グロースドイッチュラント連隊の主力は、ルクセンブルクからフランスへと侵攻したが。
第三大隊のみは、オランダ侵攻作戦に投入されたのだ。
そして、オランダ侵攻作戦に投入された空挺部隊を率先して救援する筈が、大損害を被った。
日本海兵隊とユダヤ人部隊によって。
最終的に増援部隊が投入されたこと等によって、対仏侵攻作戦は成功したと言え、又、オランダ全土も占領することになったが。
栄光を誇る筈のグロースドイッチュラント連隊は、黄色人種の日本人から成る海兵隊(つまり陸軍ではない)やユダヤ人部隊にも劣る存在だ。
こういったこと一つとっても、ドイツ、アーリア人が優秀というのは大嘘だ。
とBBC放送等が報じる事態になり、ヒトラー総統を始めとする面々は激怒し、第三大隊長は懲罰を受ける事態が起きたのだ。
シュトラハヴィッツ少佐は、その一件を思い出して、マイヤー大尉に言った。
「これは、あのオランダでの一件からして、下手に負ける訳にはいかんな」
「ですが、勝てますか。
あの戦闘を生き延びた第三大隊の面々が、こっそり言っていました。
人種的偏見で勝てるのなら、戦場では苦労しない。
日本海兵隊とユダヤ人部隊を甘く見るなと」
マイヤー大尉は、シュトラハヴィッツ少佐に言った。
「やれる限りのことをやるしかあるまいな」
それ以上のことが言えないのが、どうにも腹立たしく想える。
だが、現実にそうなのだし、燃料等の不足に苦しむ現状からすれば、更なる迂回攻撃等は論外としか言えないのが、自分にとってもつらい現実なのだ。
幾ら何でも、と言われそうですが、史実のグロースドイッチュラント連隊が執った行動を参考にして、この世界に落とし込んで描写した結果なので、全く荒唐無稽な描写ではありません。
そして、日本海兵隊が優秀な戦車を装備しているのは、谷甲州氏や佐藤大輔氏等以来の仮想戦記の伝統ということで、緩く見て下さい。
(谷甲州氏の「覇者の戦塵」では、日本海兵隊の戦車が、その世界のノモンハンの戦いにおいて、ソ連のKV戦車を相手に無双を演じる描写までもあった覚えが、私にはあります)
御感想等をお待ちしています。




