第25章―1 フランス本国全土の解放を目指して
新章の始まりになります。
少し時が戻る。
1941年5月10日朝、日の出が近づきつつある薄明の中で、米内久子は同僚や部下達と共に、自分が整備したBー23重爆撃機の最終出撃確認を各機の乗員達が行うのを、ブレスト近郊に設置された飛行場で見守っていた。
そして、各機の乗員が、自分達が乗り組む愛機に、全く問題が無いことを相次いで報告していった後、
「ヨシ、問題ナシ、全機、速やかに出撃せよ」
その報告の全てを聞いて、自らが整備した重爆撃機の機長にして、この航空隊の隊長を務める小田原俊彦中佐の言葉を聞いて、久子は心からホッとした。
何時ものことではあるのだが、最終出撃確認の際には、常に緊張せざるを得ない。
実際には聞こえる筈の無い、最前線からの砲声が幻聴で聞こえてくる気がする。
そろそろ最前線では、野戦重砲隊による大砲撃が始まっている筈だ。
そして、それによって挙がってくる煙を目印にして、重爆撃機部隊は、ドイツ軍に対して爆撃を行なうことになっている。
これは少しでも、味方への誤爆を避けるために、重爆撃機部隊の搭乗員の多くが主張したことで、それを上層部も聞き入れた、と久子は聞いていた。
久子は願った。
夫の部隊を、私が整備した重爆撃機が爆撃するようなことがありませんように。
実際問題として、あってはならないことだが、味方を誤爆する事態がそれなりに起こりかねない、何しろ重爆撃機部隊は、そのような訓練、味方の地上部隊と密接に連携して、敵の地上部隊を爆撃する訓練を殆ど行っていないのだから、と自分の耳にまで届く現実がある。
更に言えば、重爆撃機による水平爆撃の精度は低いとしか言いようが無く、それなり以上に目標から逸れた処に爆弾が投下されることが稀では無いとか。
そうしたことからすれば、夫の部隊に、自分が整備した重爆撃機の爆弾の雨が降る可能性を、完全に自分が否定できる訳が無い。
久子は、自分が整備した重爆撃機やその周囲の味方機が、夫の部隊を爆撃しないように心から願った。
(尚、これは実は久子の杞憂だった。
日本陸海軍の重爆撃機部隊は、直接には日本海兵隊と対峙しているドイツ陸軍の攻撃には、充てられてはいなかったからだ。
重爆撃機部隊は、誤爆の危険を考慮して、煙を目印にはするが、更にその後方(東方)にいる予備のドイツ陸軍の部隊を、主に爆撃する予定だった。
更に言えば、夫、米内洋六中佐が率いる戦車大隊は、戦場の後方に控えていた。
ドイツ軍の防衛陣地の最初の攻撃は、歩兵と工兵が基本的に行い、最初の防衛線を突破した後で、戦車部隊が投入される計画に成っていた。
こうしたことからすれば、夫、米内中佐の部隊を、日本陸海軍の重爆撃機部隊が誤爆する危険は極めて低いとしか、言いようが無かったのだ)
その一方、ほぼ同じ頃、カテリーナ・メンデス中尉率いる戦闘機小隊も、他の仲間達と共に飛行場を離陸しつつあった。
カテリーナは、想った。
地上部隊支援の為に、500ポンド爆弾1発が、自分の戦闘機に積まれている。
何とか敵のドイツ軍の上に爆弾を投下したいものだが。
それまでに、敵のドイツ空軍機の迎撃を受けるようなことが無ければ良いのだが。
できる限りの機密保持が行われたとのことだが、そうは言っても、ドイツ軍も優秀だ。
それなり以上の諜報活動を行っており、自分達の反攻開始を待ち受けているのではないか。
そして、ドイツ空軍機の迎撃があれば。
最悪の場合、自分の弟の上に爆弾を降らせて、弟を殺す羽目になるやも。
弟のカルロは、いよいよ初陣らしい。
そして、カルロの所属するユダヤ人部隊の地上支援の為に、自分達は出撃している。
弟の上に爆弾を降らせるような事態が起きませんように。
カテリーナは祈った。
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