第24章―20
「あれは」
カテリーナ・メンデス中尉は、とても間に合わない、恐らく他の戦艦も沈んでいる、と自分は考えていたのに、フッド以外の日英の戦艦11隻が健在な現実に、目を見張らざるを得なかった。
更に言えば、日英の他の巡洋艦や駆逐艦も、全て健在のようだ。
自分達が、この場に駆けつけるまでに、第一報を受けてから、準備等もあって一時間余りは掛かったと言うのに、結果的にだが、戦艦フッドが沈むだけで済んだとは。
そんな想いに、カテリーナは一瞬は駆られたが。
改めて目を凝らしてみれば、日本戦艦の戦隊の先頭を務める長門(細かいことを言えば、後で自分は艦名等を知ることになったのだが)が、ドイツの砲台からの複数の砲弾を被弾した為だろう、艦のあちこちからおびただしい煙を噴き上げている、更に言えば、かなりの損傷が機関にも及び減速もしていたのだろうが。
自分達が空を舞うのが、長門の乗組員の目に入った為だろう。
「遅かったな。もう、我々の力でドイツの砲台は潰した後だ」
と暗に言わんばかりに、全ての主砲塔4つを長門は旋回させて見せた。
それを見た瞬間、カテリーナは愛機の翼を振って、長門への賞讃を態度で示すことになった。
それは翼を連ねる自分達の部下や同僚も同様だった。
実際に、改めて細部まで自分が目を配れば、長門は明らかに大破、と言っても過言ではない損傷を、ドイツの砲台からの砲撃によって被っていた。
例えば、長門の前部艦橋は大損傷を被っており、司令部要員等が失われているのでは、と自分が想わず危惧する程だった。
そして、現実の損害を言うと。
「ドイツの砲台が完全に沈黙したので、自分は駆けつけたのですが。何とか命は取り留めそうだ、と軍医は診立てています」
「そうか、だが、軍人を退役することになったな」
山本五十六長官と伊藤整一参謀長は、会話を交わしていた。
山本長官はドイツ側の砲撃によって重傷を負っており、右手小指は文字通りに吹き飛んでいた。
日本海海戦時に、山本長官は左手の指2本を失っている。
指3本を失ったら、軍人として欠格になり、退役するしかない。
尚、遣欧艦隊司令部要員の中から戦死者も出ており、そういったことからすれば、山本長官が戦死しなかったのは、本当に幸運だった。
「博打打ちとして、小指を詰めて、長門大破の責任を取った、ということにして貰えないかな。それで、軍人続行という特例を認めて貰えないかな」
「其処まで言えるのなら、本当に大丈夫そうですな。ともかく、長門が敵弾を引きつけたお陰で、他の艦全てが無傷で済みました」
「最初に統制射撃の指揮を、陸奥に任せておいて正解だったな」
「確かに、あれだけ被弾しては、測距を何度もやり直すことになったでしょう」
山本司令長官と伊藤参謀長は、更にやり取りをした。
この時、長門を先頭にして日本の戦艦部隊は、ドイツの砲台兼要塞に射撃を集中したのだが。
長門はある意味では、囮を務めていたのだ。
長門に対して、ドイツの砲撃を集中させることで、他の戦艦を結果的に守るという作戦を、山本司令長官は取っていた。
そして、堅牢な長門の装甲は、その作戦を何とか成功させた次第だった。
だが、その代償として、長門は大破していたのだ。
その一方で、ドイツの砲台兼要塞は、日本の戦艦6隻を始めとする艦砲射撃の嵐によって、完全に沈黙に至っている。
そして、お互いの戦果を比較すれば、ドイツ海軍は最期の意地を果たしたと言えるだろ。
細かいことを言えば、後で知ったことだが、そんなことまでも、山本司令長官と伊藤参謀長は、やり取りの末に、そうお互いに考えることになった。
「それでは、長門を日本に還らせるか」
「はい」
二人は、そうやり取りをした。
指3本を失ったら、軍人として欠格になるという規定があり、そうしたことから、山本五十六提督は日本海海戦時に、指3本の切断手術を拒否した、というのを以前に雑誌記事で読んだ覚えがあるのですが。
ネット検索で上手く引っ掛かりませんでした。
私の記憶違いでしたら、この世界では、ということで緩く読んで下さるように、平にお願いします。
ご感想等をお待ちしています。




