第24章―18
そういった独日英の海軍の意地を掛けた戦いが起きている一方、それに無粋と言えば無粋な戦いを仕掛けようとせざるを得ない面々もいるのは、ある意味では戦場における皮肉な定めと言えた。
「ル・アーブル沖の英日艦隊を、急きょ援護せよですか」
カテリーナ・メンデス中尉は、その命令を受けた瞬間、思わず、もう間に合わない筈だ、今更、自分達が出撃しても、という考えが浮かんでしまい、想わず抗命するかのような口調で言ってしまった。
カテリーナ率いる戦闘機小隊4機を含むユダヤ人戦闘機中隊16機は、英海軍が誇る戦艦フッドが轟沈したらしい、との第一報を受けて、ル・アーブル沖に展開している英日艦隊の上空支援に急きょ赴くように、との命令を受けることになったのだ。
「自分達が居るのは、ブレスト近郊です。今からル・アーブル沖に急行しても、余り意味はない、もう全て終わった後になるのでは、と考えますが」
「確かにそうだが、少しでも英日艦隊を援護したという形を、後々のことを考えれば、残さない訳には行かないのだ。速やかに出撃せよ」
カテリーナの論難を、司令官は上官の権威で押し潰して命令を下した。
カテリーナは、もう間に合う筈がないのに、と内心で零しながら、愛機を駆って、同僚や部下達と出撃していかざるを得なかった。
とはいえ、カテリーナにしても、それなりには司令官の事情が分からざるを得なかった。
この時、英仏日等の連合軍の航空隊は、文字通りに総力を挙げて、ドイツ陸軍部隊に対する地上攻撃を行なっていると言っても過言では無かったのだ。
それこそ日本海軍の空母部隊に搭載されている艦上機部隊、それも戦闘機部隊でさえ、その過半数が空母部隊の上空直援任務ではなく、ドイツ陸軍の地上部隊攻撃に回されている有様だった。
こうしたことから、英海軍の誇り、象徴ともいえるフッドが轟沈した、という第一報を受けた際に、航空支援を行なえる部隊が事欠く事態になり、偶々、第一陣の地上部隊への攻撃を終えて、手が相対的に空いていた自分達に、英日艦隊を支援せよ、という命令が下る事態が起きたのだ。
カテリーナは、其処まで考えながら、最初の攻撃で疲れた身体を癒す間も無く、再出撃を行わざるを得なかった。
そんな想いをしながら、カテリーナが緊急発進を行なった前後、日本艦隊も改めてル・アーブル近郊の砲台兼要塞に対する艦砲射撃を開始することになっていた。
そして、それなりの危険分散も、日本艦隊は行っていた。
「参謀長、君は後部艦橋に移ってくれ。万が一のことがあっても、指揮権の混乱が起きないように」
「分かりました」
山本五十六司令長官からの命令を受けて、伊藤整一参謀長は、速やかに艦隊司令部が置かれていた前部艦橋から、後部艦橋へと自らは移動した。
勿論、フッドのように轟沈しては、意味のない移動になるのは自明だ。
だが、そんなことはまず起きる筈がないことだ。
更に言えば、念のための危険分散を図るのは、当然のことと言っても良い。
これまでは、ドイツの砲台は6インチ級の砲が最大と考えられていて、長門が損傷することがあっても、大破に至ることはない、と考えられていた。
だが、15インチ級の大砲が備え付けられていては、長門が大破どころか、沈没してもおかしくない。
そうしたことからすれば、一弾で司令部全滅という事態が起きないようにするのも当然のことだった。
そして、伊藤参謀長が後部艦橋に移動を完了する前から、ドイツの砲台兼要塞と、日本艦隊の砲撃戦は過熱する一方と言っても過言ではない事態を呈した。
とはいえ、日本艦隊の砲撃は様々な条件から中々当たらない一方、ドイツの砲台からの砲撃は当たる事態が起きていた。
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