第24章―17
ともかく戦艦フッドの轟沈は、英艦隊に大混乱をもたらした。
この時、フッドには艦隊司令長官であるホランド中将が座乗しており、又、参謀長以下の艦隊司令部も同乗していたのだ。
それなのに、フッドが轟沈したことから、英艦隊司令部が次席指揮官等に指揮権を引き継ぐ暇もなく、司令長官を始めとする艦隊司令部全てが失われる事態が引き起こされたのだ。
この時点で、英艦隊の次席指揮官は、戦艦キング・ジョージ5世の艦長であるリーチ大佐だったが。
自らの目の前で起きた惨劇、世界最大の戦艦として誇りを持っていたフッドが轟沈し、更にホランド中将以下の艦隊司令部の面々全員が、恐らくは艦と運命を共にしたことに、大いなる衝撃を受けてしまい、数分の間、リーチ大佐は呆然自失状態になっていた、と言っても過言では無かった。
その為に、リーチ大佐が速やかに英艦隊の指揮権を承継して、更にはドイツの砲台兼要塞に対して、艦砲射撃を行なうのは、暫くの間、不可能になっていた。
こうしたことから、結果的に戦艦フッドの仇を取る役目は、山本五十六司令長官が直率する日本の遣欧艦隊が行う事態が引き起こされたのだ。
「フッドが轟沈したか。英海軍の弟子として、我が日本艦隊は、師匠の敵討ちをせねばならん。長門以下の全ての戦艦、及び巡洋艦や駆逐艦に至るまで、ドイツの砲台兼要塞を全力射撃せよ」
山本司令長官は、フッドが轟沈した直後、そのように命令を下した。
「それは、余りにも危険が大きなことでは。英艦隊は混乱しており、我が日本艦隊だけで、ドイツの砲台兼要塞を相手取ることになります。せめて、英艦隊の混乱が収まるのを待ち、それまではドイツの砲台兼要塞の射程距離外に、艦隊を退避させるべきでは」
伊藤参謀長は、山本司令長官を諫めた。
実際、伊藤参謀長の意見具申も、最もなところがあった。
ドイツの砲台兼要塞、更に言えば、15インチ砲が備え付けられている場所は、海面上からすれば10メートル以上の高台にあった。
必然的に、日本艦隊の射撃は、やや上向きの射撃を強いられることになるし、更にドイツの砲台兼要塞の射撃観測所は、それこそ長門や陸奥を始めとする日本戦艦の射撃管制所よりも高いところから、目標を定められる状況にあるのだ。
当然のことと言えることだが、高いところから射撃の指揮を執る方が、更に言えば、地面に射撃観測所が固定されていることからも、ドイツ側の射撃の方が、容易に日本艦隊に降り注ぐことになる。
こうしたことからすれば、伊藤参謀長の意見の方が、遥かに常識的な意見であった。
だが、山本司令長官は、豪胆な決断を下して言った。
「我が長門と陸奥が、日本艦隊の先陣を務める。指揮官先頭こそが、東郷平八郎元帥の教えではないか。その教えに背くのか。それに、あれ程の砲撃の直撃に耐えられるのは、長門と陸奥だけの筈だ。我が長門と陸奥が、世界最強の戦艦なのを、世界に知らしめようではないか」
「分かりました」
ここまで、山本司令長官に言われては、従うしかない。
そう伊藤参謀長は考えざるを得なかった。
(更に言えば、山本司令長官の言葉に、遣欧艦隊司令部の主な面々全員が酔ってしまっていた)
かくして、日本の戦艦部隊、長門の後に陸奥が、更に他の日本の戦艦、伊勢、日向、扶桑、山城が続航して、ドイツの砲台兼要塞に猛烈な艦砲射撃を浴びせようとする事態が起きた。
又、日本の巡洋艦や駆逐艦も、戦艦部隊の掩護射撃を懸命に試みることになった。
これに対して、リンデマン大佐以下のドイツ海軍の面々も、日本艦隊に猛烈な射撃を浴びせて、懸命に応戦することになった。
彼らにしても、ドイツ海軍の最期の意地を果たそうとしていたのだ。
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