第24章―16
そんな考えを、日本の遣欧艦隊司令部の面々の多くはしたが。
そうは言っても、やらねばならないことに変わりはない。
日英の艦隊は、それこそ指揮系統の関係もあって、それぞれが適宜に交信して目標調整を行いつつ、独自にドイツの砲台兼要塞に対して、砲撃を浴びせることにした。
尚、これは必ずしも悪い判断とは言い難かった。
必然的にドイツ側も、砲撃を分散、分火する必要が、本来は生じるからである。
だが、砲台兼要塞司令官のリンデマン大佐は、敢えて割り切って砲撃を浴びせることにしており、更に部下の多くも、リンデマン大佐の判断を是としていたのだ。
「視界内に見える英国の戦艦の一つは、フッドではないか」
「私もそう考えます」
「私もです」
リンデマン大佐の問いかけに、部下は相次いで即答した。
「それならば、第一目標はフッドだ。全ての砲をフッドに向けて、何としてもフッドを沈めろ。勿論、フッドが射程内に入らないならば、他の目標を狙う事にはするが」
「はっ。私もそうしたい、と考えます」
リンデマン大佐の言葉に、部下の一人は即答した。
リンデマン大佐、更にその周囲の面々全員が想った。
後から色々と言われるかもしれない。
だが、陸戦で海軍の軍人が死なねばならない事態が起きている以上、海軍の軍人として、敵艦の一つを沈めた上でヴァルハラに赴きたい、と考えて何処が悪いのだ。
更に言えば、その沈めた敵艦が、世界最大の戦艦ならば、尚更に海軍軍人の本懐を遂げた、と言えることではないだろうか。
思えば、ノルウェー侵攻作戦で、ドイツ海軍は惨敗を喫したのだ。
それも日本海軍が相手と言っても過言ではない。
劣等民族、黄色人種である日本人の海軍に負けるとは、とヒトラー総統はドイツ海軍に激怒することになったのだ。
更にノルウェー侵攻作戦の失敗に伴って、スウェーデンからの鉄鉱石輸入が途絶することになった結果、ドイツ海軍の軍艦全てが建造中止になったと言っても過言ではない事態が起きた。
(最も、これはある程度は仕方がないことでもあった。
それこそ軍艦の建造よりも、戦車等の陸戦兵器の製造が、この頃のドイツにしてみれば、遥かに重要なことだったからだ)
その果てに、自分達は、このル・アーブルに赴くことになり、砲台兼要塞に籠って戦うことになった。
こんな状況でも、軍人として最善を尽くさねばならないのは、当然ことではあるが。
そうは言っても、軍人として、それなりの個人の意地を果たそうとして、何処が悪いだろうか。
そうした想い、考えから、リンデマン大佐を司令官とするドイツの砲台兼要塞の最初の攻撃目標は、フッドに定められることになった。
そして、15インチ砲4門による統制射撃は、結果的に見事な先制打撃を与えることに成功した。
「初弾命中とは行かなかったか」
「ですが、敵艦隊の挙動からして、15インチ砲があるとは予期していなかったようです。続けざまに狙い撃ちを試みましょう」
「有無」
そんな会話が、リンデマン大佐と部下達の間で交わされた末に。
15インチ砲4門による第三斉射は、フッドを貫くことに成功した。
そして、ドイツ側にすれば幸運な一撃、英国側にすれば不運な一撃に、この斉射はなった。
「何」
伊藤整一参謀長は、双眼鏡の視界内の光景に絶句した。
世界最大の戦艦であるフッドの艦首が、アリエナイ角度に持ち上がっている。
更に言えば、艦尾も同様になっているようだ。
ということは。
伊藤参謀長の考えがまとまる間もなく、フッドは轟沈していった。
フッドは元は巡洋戦艦であり、更に装甲強化等の大改装が行われていなかったという事情もあった。
こうしたことから、フッドの装甲は薄弱で、こうした事態を引き起こしたのだ。
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