第23章―15
そして、カテリーナ・メンデスが世界初の女性のエース、ユダヤ人部隊初のエースになった、更にはそうしたことから、中尉に特進し、更に叙勲までもされた、ということは、大々的な報道こそされなかったものの、空軍や航空隊関係者の間を中心として、徐々に広まる事態が起きることになった。
その話を、いわゆる小耳に挟むことになった、米内久子は(流石に内心に止めたが)鼻を鳴らした。
本当に、あの女に益々以て、自分は敬礼せざるを得ない立場に成ってしまった、そんな想いが自らの内心で渦巻いて、どうにも止まらなかったのだ。
勿論、冷静に考えれば、それだけ戦場という鉄火場を、カテリーナは潜り抜けて、更に戦果を挙げてきた、ということであり、昇進して、叙勲されて、というのが当然なのは重々分かることなのだが。
(序でに言えば、夫とカテリーナが不倫関係にある、というのは完全に邪推だった、というのが自分でもよくわかったのだが)
その為に却って、それこそ拳の振り下ろしどころに困ってしまい、どうにも腹の虫が収まらない。
自分の目の前の仕事に専念することで、カテリーナのことを頭の考えから捨てようとするのだが。
自分の目の前の仕事というのが、それこそドイツ本土への戦略爆撃を直接に遂行する重爆撃機の整備であることから、却って色々と他所事を考えてしまうのが、何とも言えないことだ。
戦争を少しでも早く終わらせる一環として、主に石炭液化、人造石油製造設備を目標とする戦略爆撃を展開している、と上層部(それこそ英仏日等の政府や軍の最上層部から、自分の直属の上司まで)は訴えており、それが決して誤った主張ではない、というのが、それこそ仕事に自ら励み、又、夫を始めとする周囲の話を聞いている内に、自分でも分かっているのだが。
そして、ドイツがこの戦争の惨禍を引き起こしてきた、その為にユダヤ人を始めとする多くの難民を出す等の事態を引き起こしたのであり、ドイツは悪で、それと戦うのは正義だ、と様々な人(それこそ首相や上官、同僚、部下等に至るまで)がいう主張が必ずしも誤ってはいない、と自分でも考えるが。
実際に、このブレスト基地近郊にはドイツ系ユダヤ人の難民キャンプがあり、其処の難民と触れ合うことも稀ではなく、それなりの交流が出来ていて、こういった難民を救わねば、とも自分は考えるが。
その一方で、そういった戦略爆撃が、容赦なく非戦闘員、いわゆる老若男女を問わない市民を犠牲にするのも否定できないことだ、と自分は考えざるを得ない。
幾ら精確な精密爆撃を試みようとも、高度6000メートル前後から爆弾を降らせるようなことをして、精確に目標に命中させること等、とても不可能だ、と自分の知り合いの搭乗員達は挙って言う。
そして、目標から外れた爆弾が、何を引き起こすのか、と言えば。
言うまでもなく、工場等の近くの市街地に落下して、市民に犠牲者を出すことが多発するのだ。
戦争だから止むを得ないこと、と割り切るべきなのだろうが、自分はどうにも割り切れない。
勿論、上海事件であったように、意図して市民を攻撃するよりも遥かにマシなのは否定しないが。
久子は、自分達の戦略爆撃で、多くのドイツ市民が殺戮されている、英日等は戦時国際法を守れ、というドイツ政府等の主張を、それこそお前が言うな、と考えつつ、そう言った現実を、色々と考えざるを得なかったのだ。
そして、久子は目の前の気鬱から、気持ちを切り替えよう、と別のことを敢えて考えた。
間もなく英仏日等の陸軍の反攻が、本格的に始まるとか。
夫の米内洋六は、戦車に乗って、その反攻の一翼を担うらしい。
無事に生き延びて、夫婦で寄り添いたいものだ。
これで、第23章を終えて、次話から米内洋六中佐が登場し、海兵隊等の活躍を描く、第24章になります。
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