第23章―12
この日、カテリーナ・メンデスは、最終的に1機撃墜確実、とされる戦果を挙げた。
自らのガンカメラの写真に加え、僚機もカテリーナの射弾が命中した、と証言したからだ。
そして、全部で12機の仲間の内1機を失ったが、カテリーナの他に一人が1機撃墜確実を報告した。
又、爆撃機部隊の損害は零で済んだ。
更に言えば、撃墜された戦闘機の搭乗員は落下傘での地上降下に成功した後、フランス人のレジスタンス部隊の一つに救出されて、数日後に原隊復帰を果たすことができてもいた。
尚、こうした背景、フランス本土上空で落下傘での地上降下に成功したら、多くの搭乗員が原隊復帰を果たせる、というのも、ユダヤ人部隊が低空域での空戦を好む理由の一つだった。
既述だが、敵の搭乗員が落下傘降下を試みた場合、銃撃を浴びせて空中で殺そうとする事態が、この当時は多発していたのだ。
そして、空中での落下傘降下の時間が短い程、安全に地上降下できる可能性が高いのは自明だった。
更に落下傘での地上降下を果たした後だが、ドイツ空軍の搭乗員は、ほぼ確実にフランス人のレジスタンス部隊に襲撃されて、絶命する事態が起きていた。
一方、ユダヤ人部隊を含む英仏日等の連合軍側の搭乗員は、過半数がフランス人のレジスタンス部隊の庇護下に入り、原隊復帰まで果たせていた。
(とはいえ、連合軍側の搭乗員にしても、ドイツ軍のパトロール部隊の捕虜等になる例が、それなりにあり、落下傘での地上降下が、それなりにリスクが高い行動なのは否定できなかった。
それでも、ドイツ側と比較すれば、安全性が高いのは間違いなかったのだ)
ともかく、こうした結果から、カテリーナは明るい未来を予測して戦えるようになっていた。
勿論、敵兵と言えど、殺人を行なうことに全く良心の呵責を感じなくなったとは言えないのだが。
そうしないと、自分が殺されるし、それに自分を追って戦場に赴いている弟を始めとする同胞のユダヤ人を護る為だ、として、カテリーナは割り切るしか無かったのだ。
その一方、カテリーナの周囲からの評価は、この日の戦闘の結果、更に上昇してもいた。
帰投した後、カテリーナは整備兵に対して、愛機の垂直尾翼にアーモンドの花を描くように命じた。
敵機を撃墜した数を周囲に示す為に、カテリーナは愛機にアーモンドの花を撃墜の度に描いている。
カテリーナとしては、何時ものことのつもりで言ったのだが、整備兵の態度は何時もと違った。
「おめでとうございます!」
整備兵は、周囲の者も含めて、いきなり声を挙げたのだ。
「何があったの?」
カテリーナには、さっぱり分からなかった。
「何を言われるのです。アーモンドの花が5つですよ」
整備兵が言った。
「それがどうかしたの」
カテリーナには、意味が分からない言葉だった。
「アーモンドの花が5つ、ということは5機撃墜ですよ」
「そうだけど」
整備兵とカテリーナのやり取りは続いた。
「5機撃墜、ということは、エース、撃墜王の資格を得た、ということですよ。しかも、ユダヤ人部隊初のエースに加えて、恐らく世界初の女性のエースです。本当に素晴らしいことです」
「そうですよ」
整備兵は言い募り、他の整備兵も尻馬に乗って言い出した。
「そういうことか。気が付いていなかったわ。教えてくれて有難う」
「いえ、ドイツ戦闘機を5機撃墜されるとは、本当に素晴らしい。アーモンドの花を心を込めて描かせていただきます」
「素晴らしいアーモンドの花が描かれるのを期待しているわ」
「その期待に必ずやお応えします」
カテリーナと整備兵は、更なるやり取りをして。
カテリーナは、その場を離れた。
カテリーナは想った。
自分が撃墜王になるとは想わなかった。
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