第3章―3
史実と状況が違い過ぎます、という指摘が起きそうですが。
この世界では、この話の中でも描いていますが、ドイツが完全に中国国民党政府側に公然と味方している以上、日本側としては、弱腰と国内世論から突き上げられようと、万里の長城以南の中国本土からの完全撤退を、政府も軍も本格的に検討せざるを得ないのです。
そんなことが起きていたのだが、1937年7月末現在、日中間の緊張が高まっていることに鑑み、上海海軍特別陸戦隊は(史実より増強された)3000人規模に部隊を拡張する事態が起きており、米内洋六少佐は、その中で第7大隊長を務める事態が起きていた。
これは、(史実とは異なり)漢口に派遣されていた分遣隊200人程を、海軍省と海軍軍令部が協議等した末に、いざと言う場合、日中戦争が勃発した場合には、分遣隊は中国国民党軍に殲滅されるだけだ、として、昨年末に上海に引き上げさせた事態等から生じたことだった。
(後、日本本土にいる艦艇の乗組員の一部を、特別陸戦隊に編制して送り込むようなこともしている)
又、日中間の緊張が高まっていることから、万里の長城以南の中国本土からは、全ての成人男性以外の民間の日本人に対して、退避勧告が既に外務省から出されているのが現実だった。
成人男性の民間の日本人にしても、日本から万里の長城以南の中国本土に向かうのは止めるように、と外務省が既に勧告を出している。
こうしたことが、万里の長城以南の中国本土から、1937年7月末現在、日本人がほぼ姿を消す事態を引き起こしていた。
万里の長城以南の中国本土に残っている僅かな民間の日本人にしても、商売の整理等からすぐに日本本国に帰国できない男性の大人ばかりで、妻子等は日本本土の親族等を頼みに帰国させている者ばかりだった。
そういった男性の大人にしても、すぐ傍に日本軍の駐屯地があるような場所等に固まりつつあり、いざと言う場合には、日本軍の庇護下に入れる者ばかりと言っても良かった。
こういった日本政府の勧告、対応等について、日本政府は弱腰だ、この際、ガンと一発、中国国民党政府に一撃を加えることで、日貨排斥等の排日運動を中国国民党政府に止めさせるべきだ、という一部の民間右翼主義者やいわゆる大陸浪人が、日本本土や万里の長城以南の中国本土にいない訳ではないが。
そうした面々にしても、やや声が小さくなりつつあるのが、(この世界の)現実だった。
何しろ日本は「世界の孤児」と言っても良い状況にある。
ソ連は宿敵と言って良いし、満州事変から(第一次)上海事変、更には満州国建国を行ったことは、米英仏の反感を買うことになっている。
そして、ドイツは中国国民党政府に公然と味方して、日本に敵意を向けている。
世界の大国の中で、日本に好意的な国は皆無なのだ。
(イタリアもあるではないか、と言われそうだが、イタリアが資源小国なのを考えれば、更にイタリアの立場を考えれば、日本に公然と好意を示す筈もない)
こうした状況下にあっては、もし、日中間の対立が戦争になった場合、不拡大方針を採るしかない、万里の長城以南から、日本は手を引くしかない、として、陸軍参謀本部や海軍軍令部が基本作戦を立てるのも当然だった。
何しろ日中戦争に突入して長期戦になった場合、それをどうやって打開すれば良いのだ。
南京陥落で日中戦争が終了すれば良いが、世界中の国が中国国民党政府を支持しているといって良い現状では、中国奥地に中国国民党政府は移転して抗戦を続けるだろう。
更に仏印やビルマ、モンゴルと言ったルートから、大量の支援物資が中国国民党政府に送られることにもなるだろう。
日本が、そういったルートを遮断することは不可能で、日中戦争を終わらせるとなると、屈辱的な中国からの要求を呑まざるを得ない事態さえ生じかねない。
米内少佐にしても、そういった日本の国内外の現状が分かっている。
だから、日中戦争不拡大方針に自らも賛成してはいるが。
問題は、日本政府の動向だ。
先日、成立した近衛文麿内閣はどう動くだろうか。
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