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第22章―10

「何故に前田利為中将の現役復帰を望むのかね」

 下手に畑俊六陸相に話を続けさせては、吉田茂外相と陸軍の間に、重大な亀裂が入りかねない、と危惧した米内光政首相が口を挟んだ。


「私にも上手く言えないのですが、ユーゴスラヴィア王国内戦は深刻化する予感がしてならないのです。

 そうした際に備えて、複数の選択肢を用意した方が良い気がします。


 英国外務省のある実務者が、ウチ(日本外務省)の実務者との協議の合間の雑談で、言ったそうです。

 我が英国政府や軍部は、米国独立戦争で米国独立軍と戦い、又、阿片戦争で平英団と戦ったことで、心底、懲りました。

 民衆全体が敵となるような戦争は、まず勝てない、と考えてやるしかない、ということです。

 

 勿論、どこぞの国(暗にソ連やナチスドイツ等を指している)の政府や軍のように、敵対者は絶滅させれば済む話だ、それこそ毒ガスだろうと何だろうと使え、というのならば、又、別ですが。

 そんな話が、実際に交わされたとか。

 

 ユーゴスラヴィア王国内戦に下手に介入しては、そんな事態が起きる予感が、私はしてなりません。

 それを避けるとなると、それなり以上に軍事面に造詣が深く、又、それなりに欧州情勢に知識のある人材が必要不可欠である、と私は考えた次第です。


 前田利為中将を現役復帰の上で、それなりの役職に就けた上でロンドンに送り込み、英国政府等との調整を行わせるというのは、まずはユーゴスラヴィア王国内戦情勢に対処するのに、極めて効果的では無いでしょうか」

 吉田外相は長広舌を振るった。


 その言葉を聞いた他の3人は、それなりに考え込んだ。

 前田中将の陸軍士官学校の成績は、それなりとしか言いようが無いが、その理由は、その出身(加賀百万石の前田本家当主)から、教官や先輩、同期生等々から嫉妬された為、と半公然と言われている。


 実際に陸軍大学校の成績となると、梅津美治郎や永田鉄山に次ぐ23期生中の3位であり、小畑敏四郎中将らより上なのだ。

 更に言えば、梅津は陸士15期、永田は陸士16期だが、前田は陸士17期というハンディがあっての3位である。


(全くの余談ながら、東條英機は前田と同期の陸士17期ながら、陸軍大学校入学は27期であり、4年も遅れる始末だった。

 更に陸軍大学校の成績は11位だったとか。

 そうしたことが、(史実でも)前田中将を東條が、極端なまでに嫉視させることになっている)


 だから、前田中将が、極めて優秀な人材なのは間違いない。


 更に言えば、前田中将はドイツに留学したり、駐英大使館附武官を務めたり等、欧州に長年に亘って在留していた経験の持ち主でもあった。

 そうしたことから、前田中将は、現在の日本では数少ない、肌で欧州情勢が分かる稀有な人材と言って良いのは間違いないことだ。


「確かに吉田外相が言うのは、それなり以上の道理があるようだ。前田中将を現役復帰させて、それなりの役職を作って、ロンドンに派遣しよう」

 そこまで考えた末に畑陸相は言って、米内首相や堀海相も同意して、このことは決まったが。


 その裏で、吉田外相は、さしもの他の3人にも言えない密事を考えた末に抱え込んでいた。


 前田中将の現役復帰だが、裏では英外務省の実務担当者が言ったことだが、チトーと場合によっては手を組むことまで見据えた上での、吉田外相の独断専行からの提言だった。

 

 それこそユーゴスラヴィア王国内戦の行く末は、現時点ではどうにも見極めづらい。

 だが、見極められない以上、様々な手を打ち、自国の利益追求を図るのも当然のことなのだ。


 そう吉田外相は考えて、前田中将を推挙し、ロンドンへの派遣を提言したのだ。

 この後、どうなるのか、吉田外相は考えざるを得なかった。

 これで、第22章を終えて、次話から第23章になります。

 第23章は、日本陸海軍航空隊とユダヤ人航空隊の奮戦が描かれる賞になります。


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― 新着の感想 ―
チトーと場合によっては組むのはこれまた寝技というか英国外交極まれりというべきですかね。 チトーはこうした裏を読んでいたりするんだろうか。
 11月も暮れゆく月末土日の朝晩複数更新ありがとうございます山家先生♫\(^◇^)/北風木枯らし吹き荒び夜中に窓を揺らすこの頃ですがお体に気をつけて実生活と執筆の両立頑張ってくださいスマホのこちら側か…
>チトーと場合によっては手を組む こういう寝業外交はブリテンに出来ても、大日本帝国は苦手でしょうからねえ・・・。
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