第22章―9
そんな日英の外相会談がロンドンであった裏で、それなり以上の実務者同士の緊急会議も、ほぼ同様の場所と時間で行われた末に、吉田茂外相は日本に帰国していた。
更に吉田外相は、まずは米内光政首相や堀悌吉海相、更に畑俊六陸相を加えて、最新のユーゴスラヴィア王国内部の情勢について、秘密裏の報告兼懇談を行なうことになった。
「それで、どんな方向に成ったのかね。取り敢えずは、旧ユーゴスラヴィア王国政府の復帰を目指す、という方向に成ったのかね」
「当面は、その通り、ということになりそうですな」
「ふむ、吉田外相としては、単純にはそう考えにくい、と」
「ええ、どうにも嫌な感じがするのですよ。それを英外務省等も感じている」
米内首相と吉田外相は、そんな会話を交わした。
「完全な憶測が混じっても良い。外相としての考えを聞かせて欲しい」
それを聞いた堀海相が、吉田外相の内心、考えに嫌なモノを感じて口を挟んできた。
「この場におられる方々は、ある程度は御存知でしょうが、先の(第一次)世界大戦直前に、
『バルカン半島は、欧州の火薬庫』
と謳われていました。
それこそバルカン半島の住民、諸民族は宗教問題等もあって、紛争が絶えなかったからです。
更に言えば、そのような状況を欧州の列強は、露独を筆頭に自国に都合の良いように活用しました。
そうしたことから、今でもバルカン半島の住民の多くが、排外主義を信奉しているらしいです。
外国勢力の介入を許すな、介入を是認する奴は非国民、売国奴だと多くの住民が考えている。
尚、言うまでもなくユーゴスラヴィア王国の多くが、そう考えているらしいとか」
吉田外相は、少し長い弁舌を振るい、その弁舌に他の3人は聞き入った。
「そうしたことからすれば、ドイツ政府が行ったユーゴスラヴィア王国の内戦への介入は、電撃的に成功したように見えますが、この後で多大な問題を引き起こす気がしてならないのです。
かといって、反ドイツを掲げる勢力、例えば、旧ユーゴスラヴィア王国政府の復帰を積極的に掲げているチュトニックですが、その内実は大セルビア主義者が握っていて、積極的にクロアチア人やマケドニア人の民間人への攻撃を行なっていつつある、という噂が根強い上にイタリアと積極的に手を組んだとか。
本当に、我々としては、何処と手を組むべきなのか」
吉田外相は、珍しく思案投げ首のような発言を行なった。
だが、それが実は擬態に近いのも、この場に居る3人には見えていた。
吉田外相なりの腹案があるが、言い辛いのだろう。
恐らく軍人を一人、出してほしいと言いたいのだろうが。
さて、誰を出してほしいのやら。明確に言わせるしかないな。
だが、外相が軍人のことについて、介入するのを認めることになりかねない。
痛しかゆしで、誰が言い出すべきか。
そんな感じで、他の3人は牽制し合ったが、そう続ける訳にも行かない。
結果的に畑陸相が貧乏くじを引いて、声を挙げた。
「誰か軍人を出してほしい、とでもいうのか」
「話が早い。前田利為中将にして、侯爵をロンドンに派遣して頂けませんか」
「何」
吉田外相の答えに、畑陸相は絶句した。
前田利為、陸軍大学校を同期生の中で梅津美治郎、永田鉄山に次ぐ第三位で卒業した俊才であり、又、加賀百万石と謳われた加賀藩当主前田本家の現当主である。
更にその才能から、欧州駐在経験が極めて長い一方、陸軍内では、数少ない陸軍の機械化論者であり、それを自らの爵位を活かして、今上陛下にまで直に訴えた経緯から。
陸士同期の東條英機を始めとする陸軍の多くの面々から反感を多大に買って予備役に編入され、今では悠々自適の生活を送っている。
吉田外相は、その復帰を求めていた。
最後の辺りを少し補足すると、やるのなら、きちんと手続きを踏まえろ、ということで、陸軍の面々から反感を、前田中将は多大に買ったのです。
それこそ自らの侯爵という地位を活かして、今上陛下に直訴するようなことをしては、陸軍の面々の多くが怒るのが当然です。
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