第22章―5
やや幕間に近い話で、この時点のカナリス提督の苦悩が描かれます。
そんな感じで、ドイツ政府、軍最上層部の方針は急きょ策定されることになったのだが。
カナリス提督にしてみれば、最悪に近い事態の勃発だった。
それこそユーゴスラヴィア王国内の民族、宗教対立が深刻なのは、未来知識と併せて知っている。
だから、ドイツ主導の下で速やかにユーゴスラヴィア王国内が、ある程度は分割されて平穏になる等、困難というより不可能なことだ。
自分の未来知識からすれば、それこそ日中戦争に突入した日本軍のように、ユーゴスラヴィア王国の内戦を鎮めるために、数十万人のドイツ兵をユーゴスラヴィア王国内に派遣しないといけない未来が、垣間見えてならない。
しかも、アプヴェーアの諜報網によって得られた情報に因れば、1941年5月頃から英仏日等はブルターニュ、ノルマンディー半島橋頭堡からの本格的な反攻開始を目論んでおり、その前段階として、ドイツ本土への戦略爆撃やフランス国内の鉄道、道路といった輸送網への戦術爆撃を徐々に強化しつつある。
そうしたことからすれば、英仏日等の本格的な反攻開始に備えて、ドイツ陸軍主力をフランス本土から動かすべきでは無いのだが、ユーゴスラヴィア王国内にドイツ軍を急きょ派遣する必要が生じたのだ。
カナリス提督なりに、ユーゴスラヴィア王国で急きょ起きたクロアチア、マケドニアの分離独立の動きにどう対応すべきか、複数の案を考えてみたが、どれもろくなことにはならないのが、あからさまに自分には分かるだけに苦悩は深まるばかりだった。
カナリス提督が、最初に考えたのは、ドイツ政府、軍としては、クロアチア、マケドニアの分離独立に反対して、ユーゴスラヴィア王国に積極的に加担することだったが。
ヒトラー総統が、それに納得する筈がない、という考えにすぐに至った。
何しろクロアチア自治州は、ドイツ政府(とイタリア政府等)の外交的圧力から成立したのだ。
クロアチアの独立に反対しては、自らの外交方針が誤っていたと認めることになりかねない。
ヒトラー総統から、味方を見捨てるのか、私の外交が誤っていたというのか、と自分が面罵されると共に、ヒトラー総統が益々意固地になる姿が、自分の脳裏に浮んでならない。
では、中立を保つか。
これ又、ろくなことに成らないだろう。
敵の敵は味方という隠微な論理、ユーゴスラヴィア王国について、王制打倒の一点共闘から、ウスタシャ等の反政府武装組織が連携しているが、それこそ強力な指導者がいないのが現実だ。
そうしたことから、バラバラで戦うことになり、ユーゴスラヴィア王国の内戦が長期化するのでは、と自分は考える。
そうなると、ルーマニアの原油の輸送等に支障が生じ、ドイツの戦争遂行に重大な問題が生じるのは必至になる。
更に内戦が長期化すれば、憎しみの連鎖が起きるのは必至だ。
史実の第二次世界大戦において、ユーゴスラヴィア王国内で100万人を超える虐殺事件が、報復合戦の果てに起きたと伝わっているが。
(それこそ、村落等に対する襲撃事件から、強制収容所に送り込んだ末での虐殺事件等々が起きた。
ドイツの一般SSの多くの面々でさえ、
「我々はここまでのことはやっていない。ユーゴスラヴィア王国内での民族間の報復合戦は本当に酷い」
と回想した、と伝わる程の惨状を呈したのだ)
となると、ヒトラー総統の命じるままに、ドイツはユーゴスラヴィア王国の内戦にクロアチア、マケドニア側で介入するのが正解なのか。
だが、それは史実の失敗を積極的に行おう、とすることではないのか。
何故に失敗した史実の再演を分かっていながら、自分は誤った路を進むしかないのだろうか。
カナリス提督にしてみれば、どうにも悩むしかない事態だった。
どれを選んでも、ろくなことに成らないと言う、最悪の事態が起きたとしか、カナリス提督にしてみれば言えないのが現状なのです。
ご感想等をお待ちしています。




