第22章―4
ヒトラー総統は、このユーゴスラヴィア王国内で起きたクロアチア、マケドニアの分離独立宣言の第一報を聞いた時だが、速やかにクロアチア、マケドニア側に立っての武力介入をするように、ドイツ陸空軍に対して求めることになった。
何しろ、ユーゴスラヴィア王国の内戦が長引いた場合、ルーマニアからの原油の輸入等に多大な支障が生じかねず、ドイツの戦争遂行能力に甚大な影響が生じるのだ。
となると、どちらかにドイツ政府、軍は積極的に加担して、速やかにユーゴスラヴィア王国の内戦を終結させざるを得ない。
それでは、どちらに加担するのが、ドイツにとって正解なのか。
ユーゴスラヴィア王国政府は、第一次世界大戦終結後に建国されて以来、伝統的に親仏外交を展開しており、それこそチェコスロヴァキアやルーマニアと協調して、小協商を結成して、ハンガリー包囲網を形成していたこともある。
それに対して、クロアチア人は、歴史的経緯から言えば、オーストリア=ハンガリー二重帝国の国民だったのであり、クロアチア自治州の成立にも、ドイツ政府(及びイタリア等)が加担したという事情がある。
こうしたことを考え合わせる程に、ドイツ政府、軍はクロアチア、マケドニア側に加担する必要がある、とヒトラー総統は、自らが招集したドイツ政府、軍の最上層部の面々に長広舌を振るった。
更に、ドイツ政府、軍の最上層部も、殆どがヒトラー総統に賛同する事態が起きた。
それに、ドイツ政府、軍の最上層部にしてみれば、速やかに旗幟を明らかにする必要が、周辺諸国への対応からもあったのだ。
まず、ブルガリア政府が、同胞といえるマケドニア人を救援すると言う声明を発表した。
(本音では、マケドニア地域を自国領にしたい、という事情からだったが)
又、ハンガリー政府も、こういった状況が起きた以上、万が一に備えて、ユーゴスラヴィア王国内にいる同胞のハンガリー人を庇護するために、武力介入の準備をする、という声明を発した。
こうした状況から、ソ連政府までが民族自決の観点から、ユーゴスラヴィア王国からのクロアチア、マケドニアの分離独立は認められるべきだ、という声明を出した。
その一方、イタリア政府は、(この世界でも、史実同様に装備更新が遅延していたことに加えて、史実のようなドイツの快進撃が起きていないことから、エジプト侵攻作戦も、ギリシャ侵攻作戦も行っていなかったこともあって)自国領に併合していたアルバニアの確保に重点を置き、表向きはユーゴスラヴィア王国とクロアチア人、マケドニア人双方に自制を求める事態が引き起こされていた。
更にギリシャ政府にしても、隣国のユーゴスラヴィア王国の混乱が、自国内に波及することを警戒すると共に、ブルガリアがマケドニア地域を併合するのは看過できない事態である、と内々で考えることになり、密やかにユーゴスラヴィア王国に援助を試みる事態が引き起こされていた。
そんな周辺諸国の複雑な動きがある以上、ドイツ政府にしても旗色を明確にする必要があったのだ。
更に言えば、この当時のユーゴスラヴィア王国内には、少数民族ではあったが、数十万人に達するドイツ系の住民が歴史的経緯から居住しており、ドイツ政府にしてみれば、同胞として庇護する必要性が極めて高いという現実があった。
そして、ユーゴスラヴィア王国内では、セルビア人優越主義からセルビア人以外を迫害して来た歴史的経緯がある以上、少しでもマシと考えるクロアチア人やマケドニア人側に、ドイツ政府としては加担せざるを得ないのが、現実というものだった。
ともかくこうしたことから、ドイツ軍はユーゴスラヴィア王国内への侵攻を図ることになった。
度々ですが、少し補足説明します。
マケドニア人と言われますが、その言語は完全にブルガリア語方言と言っても過言ではなく、ブルガリア人の多数派にしてみれば、ブルガリア人とマケドニア人は同一で、マケドニアはブルガリアの領土に成るのが当然なのです。
その一方、マケドニア人の多数派に言わせれば、ブルガリア人とマケドニア人は別で、マケドニアはブルガリアとは別の独立国家であるべき、との主張があり、史実ではマケドニア人多数派の主張が通って、21世紀ではマケドニアは独立国家になりました。
そんな感じで、ユーゴスラヴィア王国内の住民、民族の多数派と周辺諸国の住民の多数派の意見が食い違っていること等も、史実の第二次世界大戦時に凄惨な事態を引き起こした要因であり、この世界でも似た事態が起きます。
それから、何故にルーマニアからドイツへの原油輸入に、ユーゴスラヴィア王国内戦が影響するのか、と言われそうですが。
史実でも1941年当時、ベオグラード経由で、かなりのルーマニア産原油がドイツへと輸送されていたようで、そうしたことからすれば、ユーゴスラヴィア王国内戦は、ドイツの原油確保に致命的影響を与えかねないことで、ドイツ政府は看過できなかったのです。
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