第19章―7
最も細かいことを言えば、そう言って指導している先輩兵や下士官達も、海兵隊配属当初は、五十歩百歩なのが現実だった。
(既述だが)日本海兵隊の常設化が決まった際に、駄馬部隊を編制することを放棄し、全面自動車化を積極的に推進することにしたのだが、機材の充実と共に、この兵の育成に本当に頭を痛めることになった。
だからこそ、急激な海兵隊の拡張は色々な意味で悪戦苦闘することになり、陸軍から士官、下士官を海兵隊に大量に派遣してくれ、という事態になったのだ。
そして、米内洋六少佐は、そんな感じで指揮下にある海兵大隊を巡察しては、主に新兵を叱り飛ばし、自動車に慣れるように指導することになった。
そういった事情が絡み合ったことから、陸軍から海兵隊に派遣され、更に欧州に送られた士官や下士官は、色々な意味で目を丸くする事態が起きた。
「海兵隊に行ってくれ、その代わり、師団長をすることになる、と言われたので赴いたのだが。海兵隊の場合、師団長は親補職にならないとはな」
「何か不満があるのか」
「いや、無いな。むしろ、これだけの部隊の指揮権を与えらえるのを有難い、と考えるべきなのだろう。何しろ少将から中将に特進したのだから」
詳細な自分の感情を感じさせない言葉を、桜井省三中将は発していた。
因みに、その話し相手を務めているのは、根本博中将である。
二人は共に、海兵隊への出向に合わせて、中将に特進する事態が起きており、桜井省三中将は第二海兵師団長を、根本博中将は第三海兵師団長を務める事態が起きていた。
(この辺りは、この世界では日中戦争が早期に日本の敗北で終結した、という裏事情がある。
その為に、第二次世界大戦勃発まで、日本陸軍の急激な拡大が起きておらず、その為に史実のような昇進が、桜井省三中将や根本博中将には起きていなかったのだ)
そして、その場には第四海兵師団長を務める栗林忠道少将もいて、呟かざるを得なかった。
「私も不満を訴える訳には行きませんが。とはいえ、自分の目に英軍の装備を見せつけられ、更には独仏軍を始めとする欧州の陸軍の現況を見せつけられては。本当に、私の本来の所属である日本陸軍が質的には三流陸軍だ、と暗にそしられているようで。腹が立つというか、何とも言えない想いですよ」
その言葉に、桜井中将も根本中将も、(下手に自分が口を開いては、荒れた言葉しか出ないことから)無言で肯くしかない事態が起きていた。
実際に全く以てその通りとしか、言いようが無いのが、(史実でもそうだったが、この世界の)日本陸軍の現実だった。
そもそも論になりかねないが、日本(の国民)の自動車普及率は極めて低いのが現実である。
だから、第一次世界大戦の様々な戦訓等から、日本陸軍内で機械化を推進すべきだ、との声が挙がっても、現実論から押し潰される、といっても過言では無かった。
そして、それに結果的に、ずっと甘んじているのが現実の日本陸軍だった。
(だから、史実では日本陸軍の自動車化、機械化が進まなかったのだ)
しかし、自分達が欧州に派遣されたところ、日本海兵隊が完全自動車化を果たしており、更に英仏独等の陸軍でも、それに近い現状にあるのが、自分達の目に見せつけられてしまったのだ。
そして、第二次世界大戦終結後のことを考えれば、この現実が広まっては、日本国内で陸軍は世界では三流陸軍との風評が広まるのは確定的だ。
更に、ソ連陸空軍、中国陸空軍の脅威から、満蒙を護るのも困難になる未来が垣間見えている。
「現状を何としても変えて行き、当面はレンドリースを積極的に受け入れて、我が陸軍の改善を図るしかないぞ」
桜井中将は獅子吼し、それに根本中将らも同意した。
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