第18章―19
そんな事態が、欧州に派遣されている女性補助部隊に起きているのと相前後して、カテリーナ・メンデス少尉の身にも、大きな動きがあった。
「正式に最前線といえるブルターニュ半島に展開して、ユダヤ人部隊では無かった、表向きは英領パレスチナの航空隊は、ドイツ軍と戦うことになった。言うまでもないが、女性部隊も最前線勤務で、君もその一員に選ばれた。出来る限りの奮闘を期待する」
「分かりました」
カテリーナは、直属の上官と、そんなやり取りをすることになっていた。
「いよいよ最前線に赴くのですね」
「ああ、頑張ってくれ」
「分かりました。最善を尽くします」
型どおりと言えば、型どおりのやり取りをする一方で、色々とカテリーナは考えざるを得なかった。
最愛の想い人、米内洋六は、私のことをどう考えているだろう。
何だか、彼の傍に寄り添えない身になりつつある気がして、自分は仕方がない。
自分自身が生き残るため、という大義名分があって、私なりに頑張り続けているけど。
更に言えば、周囲に自分自身の躊躇いを覚られない為にも、懸命に頑張ってもいるけど。
その結果として、ドンドン自分自身が、戦禍の深みにハマりつつある気がして仕方がない。
この地には通訳として、自分は赴いた筈なのに。
更に大人しく受け流せば良かったのに、思わず自らが対応した結果、将来の撃墜王候補として、周囲から期待される事態が起きてしまった。
更に、それに徐々に自分は慣れたくなかった筈なのに、慣れつつある現実がある。
今の私自身、自分を鏡に映すように見つめてみると、本当に表面上の心と内心が食い違いつつある気がして仕方がないのが現実だ。
表面上は戦争が嫌で、最前線等に私は赴きたくないのに。
自分の心の奥底では、父を始めとする仲間、ユダヤ人の仇を討つべきだ、そう自分も考えているのだろう、更に言えば、それを愉しいと感じつつあるのだろう、という声が徐々に沸き上がりつつある。
その声に素直に従うならば、私は最前線に赴いて戦うべき、ということになる。
更に考えるならば、第二次世界大戦勃発以前から、ドイツでナチスが政権を奪取して以降、更にはドイツの国内外でユダヤ人迫害を始めた結果として、私の父は上海で殺される羽目になり、他にも多くのユダヤ人が殺される事態が起きたのだ。
更に言えば、ドイツの占領下にある地域全体で、ユダヤ人が殺されつつあるという情報が流れており、私がその情報を集めて考える限り、その情報は正しいと考えざるを得ない。
そうしたことからすれば、その報復として、ドイツと積極的に戦うべきだ、という主張に一理も二理もある、と私も考えざるを得ないが。
そして、その考えを推し進めるならば、私は最前線で戦うべきだ、ということになるのだが。
カテリーナは、其処まで考えを進めつつ、心の奥底で、そんなことをしては、想い人の洋六とすれ違う気がしてならなかった。
洋六は、古いと言えば古い人間で、女性が戦場に赴くべきではない、と考えているようだ。
妻の久子が女性補助部隊に志願したのを叱り飛ばした、という噂を私は聞いているし、私が軍人に志願するのも、それとなく心配して反対したのだ。
そう言った彼の考えからすれば、自分はその考えを裏切るようなことばかりしていて、彼から愛想を尽かされて当然の気さえしてしまう。
カテリーナは、思わずそこまで考えを進めてしまったが。
その一方で、自分ではどうにもならない、という諦めの想いが沸き上がって仕方なかった。
最早、自分は最前線に赴いて戦うしかないのだ。
そこで、最善を尽くし、生き残れるように努めるしかない。
生き延びて、少しでも幸せになれるように自分は努力するしかないのだ。
ご感想等をお待ちしています。




