第18章―18
ともかく、そういった動きを日本陸軍航空隊が示すことになったことから、日本海軍所属の女性補助部隊にまで、その影響が及ぶ事態が引き起こされた。
米内久子の視点から、それを描くならば。
「日本陸軍航空隊は、一時派遣の筈だったのでは、だから、私達が整備に当たっていたのに、今更、陸軍が整備兵を欧州に派遣して来ると言うの」
「陸軍が整備兵を派遣してくれるのなら、素直に喜ぶべきよ。私達は、本来は海軍航空隊支援の為に欧州に赴いているのだから。それにそれだけ、日本陸海軍の欧州における戦力は、充実することになる。そうなれば、ドイツを打ち破って、日本に自分達は早く帰れると考えるけど」
「確かにその通りね」
そんな会話を、久子は同僚達と交わすことになっていた。
そんな会話をしながら、久子は内心で考えていた。
私達が本来は海軍所属である以上、陸軍機を整備するのは、本来からすればおかしい、とまでも言えるのだから、陸軍が整備兵を欧州に派遣する、というのを素直に喜ぶべきなのだが。
陸軍なりの様々な思惑がある、と自分は考えざるを得ない。
それとなく、夫にこの事を伝えて、夫なりの推測を自分は聞いておいた方が、色々と良い気がする。
それにどうにも癇に障ることが、自分には一つある。
「素直に陸軍も整備兵を欧州に派遣して来るのを、私達は喜ぶべきなのでしょうけど」
久子は、敢えて其処で言葉を切って、周囲からの注目を集めた上で、言葉を続けた。
「私達が懸命に解読ではなかった、翻訳して来た整備マニュアル等を、陸軍は寄こせ、と言ってくる気がしてならないわね。全く整備マニュアルの翻訳に、どれだけ私達は手間取ったことか。それこそ士官達に懇願までした末に、ようやく何とかなったのよ」
久子の言葉を聞いた周囲は、その言葉を聞いて、改めて現実に気が付いた。
自分達が散々に苦労した整備マニュアル等の翻訳、その成果を陸軍の整備兵達は、易々と手に入れるのではないだろうか。
自分達が散々に苦労した末に手に入れた代物を、易々と陸軍の整備兵が手に入れるというのは、どうにも癇に障ることではないだろうか。
「絶対に許せない」
「腹が立って仕方がない」
久子の周りの面々が、相次いで言う事態が引き起こされた。
久子は少し煽り過ぎたか、と内心で反省したが、本音では周りの面々と同じ想いである。
「それなりの見返りが無いと陸軍に整備マニュアル等は渡せない、と上に訴えるわよ。上も私達と同じ想いをする筈。何しろ、陸軍が安易に整備マニュアル等を手に入れるのを、面白く想う訳が無いわ」
「確かにその通り」
「陸海軍上層部の仲は微妙だからね」
久子の言葉に、周囲は相次いで賛同して、久子とその周囲は、上層部に訴えることになり、整備マニュアル等の問題は、それなりの事態を引き起こした。
そう、自分で煽るようなことを言ってしまった一方で、久子は、それなりに反省していた。
余りにも言い過ぎてしまった。
もう少し、穏やかに上に訴えるように言うべきだった。
でも、この一件は、どうにも腹立たしく思えてならないことだったのだ。
そう自分で自分に対して、久子は言い訳をする一方、更に考えた。
陸軍が整備兵を派遣して来る以上、自分達は本来の所属である海軍航空隊、それも重爆撃機を装備した部隊の整備任務に戻ることになるのだろう。
向こうは向こうで、人手不足に苦慮していることからすれば、自分達が本来の所属に戻ることを、向こうも自分も喜ぶべきなのだろうが。
こうなってくると、自分が整備した重爆撃機部隊が、戦場でどんな目標を攻撃することになるのか、自分は少なからず気になる。
軍事的な目標のみを攻撃するのだろうか。
久子は思わず考え込んだ。
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