第18章―13
さて、お互いに着陸した後のカテリーナ・メンデス少尉の側から描くならば。
「よくやってくれた。確かに格闘戦の誘いに乗らねば良かったな。向きにならねば良かったのか」
偶々、来ていた英空軍の撃墜王ダグラス・バーダー少佐自ら、カテリーナに声を掛けて称賛していた。
尚、その周囲にはユダヤ人のみならず、英空軍の面々も来ており、人の輪ができていた。
模擬空戦とはいえど、スピットファイア戦闘機でも百式戦闘機に苦戦する事態が多発していたのだ。
これは日本人が製造した戦闘機に、我が英国の製造した戦闘機が負ける筈がない、という先入観から起きていたと言っても過言では無かった。
百式戦闘機を操る日本陸軍航空隊の面々が格闘戦を挑めば、ハリケーン戦闘機乗りどころか、スピットファイア戦闘機乗りも、バトルオブブリテンにおいて、ドイツ空軍の戦闘機相手に格闘戦で勝って来たという自負心もあって、積極的に格闘戦に応じていたのだ。
だが、百式戦闘機相手に格闘戦を挑むと言うのは、それこそ後知恵が混じるが、自殺行為に近かった。
百式戦闘機の方が格闘性能が基本的に勝っているのだ。
スピットファイア戦闘機でも、劣勢になるのか、と多くの英空軍の戦闘機乗りが頭を痛めていた。
だが、そういった状況を、カテリーナは一変させた。
カテリーナは、一撃離脱に徹することで、スピットファイア戦闘機は、百式戦闘機相手に優勢裡に戦えると言うのを、周囲に認めさせたのである。
「スピットファイア戦闘機の性能のお蔭です」
とカテリーナは謙遜したが、バーダー少佐を始めとする周囲の面々の殆どが、カテリーナを見て考えた。
自分達が優位に戦える方策を講じるのは当たり前と言えば当たり前だが、どうしても過去の成功体験にすがりがちになり、新たな方策を採用するのは躊躇いがちになるモノだ。
だが、カテリーナは、純粋に優位に戦うにはどうすれば良いのか、を考えており、それで模擬戦闘に勝利を収めている。
彼女は、幸運に恵まれれば、必ずや撃墜王として名を遺せるだろう。
さて、負けた檜與平少尉の方だが。
「女性と想って見くびったようだな」
開口一番に加藤少佐に言われて、檜少尉は黙って俯くしか無かった。
実際、檜少尉の戦闘機乗りとしての腕は、決して悪くは無く、平均以上と言って良い。
だから、自信を持って、カテリーナに挑んだのだが。
自分自身も認めるしかないが、どう見ても惨敗してしまったのだ。
「何で負けたのか、分かるか」
「自分が未熟だからです」
加藤少佐の問いかけに、檜少尉は即答したが。
その答えに加藤少佐は、無言で首を横に振って、先ずは否定し、暫く沈黙した後で口を開いた。
「相手に予断が無く、十二分に考えていたからだ、と自分は考える」
「予断ですか」
「彼を知り己を知れば百戦危うからず、というではないか」
「はい」
「百式戦闘機とスピットファイア戦闘機を比較した場合、スピットファイア戦闘機側が、一撃離脱に徹すれば、百式戦闘機が劣勢になるのは自明の理だ。だが、これまで英空軍の面々は、ユダヤ人部隊も含めて、ひたすら格闘戦で挑んで来ていた。それで、我々は勝てていたのだ。そして、岡目八目ではないが、メンデス少尉は、それを地上から見ていて、一撃離脱に徹することで勝とうとし、実際に成功したのだ。格闘戦で勝とうという予断が無く、一撃離脱に徹したメンデス少尉に対し、君は格闘戦をひたすら挑もうとして、敗北したのだ」
「そういうことですか」
加藤少佐の言葉を聞き、檜少尉は俯いて、そう言うしか無かった。
「これを教訓にして、考えて腕を磨け」
「はい」
加藤少佐の訓戒を受け、檜少尉は改めて前を向いて訓練に励み、後に撃墜王になることになる。
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