第16章―8
感想欄を読んだことから、少し補足。
米内洋六は、妻の久子からの手紙を読んだこと等から、妻が女性補助部隊の一員になることについて、余りにも軽く考え過ぎだ、と不快感を覚えていました。
そうしたことから、妻を少し追い詰める言動をしたのです。
夫の米内洋六が原隊に帰って行った後、米内久子は数日に亘って、表面上は軍務に精励しつつ、色々と考えざるを得なかった。
あの後、夫婦で暫く寄り添い、更には、自分が持参して来た故郷の岩手の様々な名物に、夫婦で舌鼓を打つことは出来たのだが。
その一方で、夫から問い掛けられ、問い詰められた諸々のことを、久子なりにどうにも考え続けざるを得なかったのだ。
久子自身の本音からすれば、自分は女性補助部隊の所属でアリ、前線に赴く身ではない以上は、軍人ではない、とこれまで軽く考えて、志願した上で欧州にまで来ていたのだが。
夫から厳しく問い詰められ、更にはカテリーナ・メンデスが、当初は女性補助部隊の一員として志願した筈なのに、今では最前線で戦う戦闘機パイロットにまでなっているという現実を教えられて、改めて自分の立場について、自身を厳しく見つめざるを、久子は得なくなっていたのだ。
久子は、自分なりに突き詰めて考える程に、夫の叱声は正しい、と考えざるを得なかった。
御国の為に、というのは美名で多くの人を酔わせるモノで、自分もそれを活用して、この地まで赴いたと言えるのだが。
だが、結局のところ、女性補助部隊の一員として任務に精励することは、殺人に精励することだ、という主張に、何処まで自分は反論できるだろうか。
自分は、直接には人殺しに加担していない、自分の手はキレイだ、と反論すべきかもしれないが。
自分が整備した爆撃機が、敵兵を殺しているのは否定できない現実ではないだろうか。
それなのに、自分の手はキレイで、人殺しではないのだ、と言い張れるだろうか。
夫に叱られたが、都合の良いことだけを考えて、自分は女性補助部隊に志願した、と言われても仕方がない気がしてしょうがない。
だが、今更、女性補助部隊志願を取り止めて、自分が辞職、退職する等、この第二次世界大戦の真っ只中にいる以上は出来る筈がない。
そうである以上、自分は女性補助部隊の一員として、この第二次世界大戦が終わるまで戦い抜くしかない身なのだ。
散々に悩んだ末のことだが、久子は最終的には、そのように割り切って考えることにした。
その一方で、久子はそれなり以上に、ブレストというか、ブルターニュ地方での食生活に馴染む事態が起きていた。
ブルターニュ地方は知る人ぞ知る、と言って良いレベルだが、蕎麦の名産地である。
そして、久子やその周囲は、それなり以上に新鮮な食材確保に気を配る事態が起きており、そうしたことから、ブルターニュ地方の蕎麦に興味を抱いて、購入する事態に至っていたのだ。
更に言えば、日本と西欧の気候等の違いから、ブルターニュ地方の蕎麦の収穫時期は、日本で言えば、完全に夏蕎麦になる7月、8月という現実がある。
そういったことが合わさったことから、久子達はブルターニュ地方で、蕎麦の現地調達を図ることになったのだ。
(尚、誤解を生まないように、細かい付言をするならばだが。
久子達が所属している日本海軍の女性補助部隊は、蕎麦を現地調達したと言っているが、決していわゆる略奪行為等をした訳では無く、現地の市場で適正な値段で蕎麦を購入しているのが現実である)
そして、購入した蕎麦を活用して、更に自分達が欧州まで持参した調味料等を活用して、蕎麦料理に舌鼓を、久子やその周囲は打つことになったのだが。
そうは言っても、蕎麦料理と言っても、日本国内でさえ違いがあるのは当然で、久子達はお互いにそういった自分が食べて来た様々な蕎麦料理を教え合う事態が起きるのが当然だった。
「蕎麦は、本当に色々な料理法があるのね」
「フランスだと蕎麦は麵料理ではないとは想わなかった」
久子達は、そうも会話した。
ご感想等をお待ちしています。




