第16章―4
そんなことを少し想い、考えた後、米内久子は(自分なりの最終的な)欧州に赴く準備を調えた。
軍人である以上、そんなに私物を欧州に持参できる訳が無い。
そうは言っても、これまでの様々な経緯から、それなり以上の準備ができることにはなっている。
自分としては、故郷の近傍の名物であり、私の好物でもある南部玉味噌を欧州に持参したかったが。
実際に自分で作って、欧州に持参するには、様々な問題がある、とどうにも考えざるを得ず、最終的には断念するしかなかった。
そうは言っても、それなりの似た味噌を作れたのは幸いと言うべきか。
そんなことまで考えつつ、久子は欧州行きの準備を粛々と調えることになった。
更に言えば、久子のいる館山基地の女性補助部隊の面々どころか、それ以外の海軍基地、鎮守府等で編制されている欧州に赴く女性補助部隊の面々の殆どが、久子と似たような行動をして、準備をしていた。
何しろ時代が時代である。
欧州に赴いたら、日本の味が味わえなくなるのが、当然の時代としか、言いようが無いのだ。
そうしたことから、これまでの様々な経験もあって、女性補助部隊の面々の多くが、自家製味噌や手作りの漬物等を、日本から持参しようと画策することになり、実際にそれを日本軍上層部も嘉納するという事態が起きることになったのだ。
(実際問題として、欧州にいる日本軍上層部の殆どが、内心ではこういった動きを歓迎した。
それこそ味噌や漬物等、この頃の欧州では入手不可能と言っても過言ではない。
そして、兵達の士気を高めるのに、故郷の味が著効を上げるのを見聞きしていては。
女性補助部隊の動きを歓迎しこそすれ、反対等はトンデモナイ、と言う事態が引き起こされたのだ)
そして、久子の欧州行だが。
「97式飛行艇の臨時改造で、欧州まで赴けですか」
「何か文句があるのか」
「いえ、ありません」
「ともかく、少しでも早く欧州に人員を送り込みたいのだ。黙って従え」
「はい」
(超要約すればだが)そんなやり取りをして、久子は欧州に赴くことになった。
それなりに私物(?)を積まねばならない事情が相まって、本来の乗員9人に加えて、整備員13人が同乗した上で97式飛行艇は、欧州に赴くことになったのだ。
だが、欧州に赴いた後、97式飛行艇の乗員が、そのまま97式飛行艇に乗り組むのか、というと。
「機種改編訓練を行うのですか」
「その通りだ。整備員も腕を磨くように」
久子と上官は、そんなやり取りを交わすことになった。
97式飛行艇の乗員は、欧州では英空軍(及び米国政府)から提供される重爆撃機の乗員になる予定になっているのだ。
整備員も、そのまま重爆撃機の整備員になる予定だ。
久子の上官は、
「今後の対独戦において、戦略爆撃が必要不可欠である以上、日本軍も戦略爆撃が将来は遂行できるように様々な準備を行う必要があるのだ。97式飛行艇の乗員の件は、その一環だ」
とだけしか言わないが。
これまでの夫の米内洋六との会話や、半年余りの女性補助部隊の経験からすれば、このような事態が起きたのは、久子にしてみれば自明に近いことだった。
日本海軍にしてみれば、米国が仮想敵国に回ることを想定して、備えざるを得ないのだ。
その備えの一環として、戦略爆撃が可能な四発重爆撃機の部隊整備が、いざと言う際には可能なように準備を調えざるを得ない、と考えて行動することになったのだ。
だが、その一方で第二次世界大戦において、英仏を介して日米が友好関係にある以上、そんなことを表立って示して、更に行動する訳には行かないのが、日本海軍の現実なのだ。
そうしたことから、こんな事態が起きたのか、と久子は考えて、溜息を吐くしか無かった。
どうのこうの言っても、これまでの仮想敵国を、そう軽々しく考える訳には行かないのです。
そうしたことから、この事態は起きました。
ご感想等をお待ちしています。




