第16章―3
昼食を終えた後、米内藤子は祖母の小林はると共に食器洗いをし、更に夕食の下ごしらえをした。
藤子は想った。
祖母としては、色々と複雑ながら、義理の孫といえる松江に、自分のご飯が良い、と言って貰えたのが嬉しくてならないのだろう。
更に考えれば、私の養母の久子に対して、色々と想い考えるところがあるのだろう。
そうでなければ、特に何も無いのに、手間暇の掛かる料理の準備等をする筈がない。
「乾燥椎茸をもどすのには、これで良い?」
「ああ、それで良い」
祖母と孫娘は、そんな会話をして、夕食の下ごしらえをした。
そして、色々と準備をしながら、はるは藤子に言った。
「久子さんが海軍下士官になるとはねえ。女性が海軍下士官になるとは、時代が変わったモノだ」
「私も驚きました」
藤子は祖母に答えながら、内心で考えた。
細かいことを言えば、補助部隊所属だから、養母の久子は正規の海軍下士官とは言えないのだが。
そうは言っても、正規の海軍下士官と、ほぼ同じ処遇を周囲からも受ける以上、そう間違っているとは言い難い話になる。
そう言えば、アンナさんに教えられたけど、カテリーナ・メンデスさんは、今では英空軍少尉に任官しているらしい。
促成士官養成課程に合格したことによるもので、陰では急造にも程があると言われているらしいが、そうは言っても、少尉という地位は大きい。
養母の久子は、カテリーナさんに会った時、敬礼をしないといけない立場と言うことになるのだ。
養母の久子は、カテリーナさんに会った際に、素直に敬礼できるのだろうか。
そんな他所事までが、藤子の脳裏に浮かんでならなかった。
そんなことを養女というか、息子の許嫁の藤子が考えていること等、久子は気づくことなく、館山基地に帰営して出征の準備を確認するつもりだったのが。
帰営すると、岩手の故郷にいる義理を含む親兄弟の手紙に加え、長男の仁からの手紙が届いていて、久子は改めてそれらにまずは目を通した。
まずは義理を含む親兄弟の手紙の内容だが、久子に対して、子どもが心配ではないのか、確かに御国の役に立ちたい、というのは極めて立派なことだが、女性の身である以上、まずは家を護るべきでは、と大同小異ながら、そんなことを書いて寄こしていた。
久子は改めて想った。
確かに家を護れ、というのは、それなりの理屈だ。
だからと言って、その為に私に犠牲になれ、というのは間違っている。
何で何もかも、跡取り息子の嫁だから、と言う理屈で、私は犠牲にならねばならないのか。
私だって、自分の想いを貫きたいのだ。
そして、夫の傍に赴きたいのだ。
そう考える一方で、末娘の松江の顔が、久子の脳裏に浮んでならなかった。
松江は、当面の間、私の料理の味を知らずに育つことになる。
結果的に小林はるの、更には息子の許嫁である藤子の料理に親しむことになるのか。
自業自得としか、言いようが無いが、末娘が自分の料理の味を知らずに育つことになるとは。
そんな想いが、久子を捕らえた。
そして、最後に長男の仁からの手紙だが。
仁は、既に諦観の心境に達しているらしかった。
欧州で御国の為に頑張ってください、と紋切り型の手紙をよこし、更には、養父の洋六に逢ったら、自分が懸命に海軍兵学校で頑張っている、と伝えて下さい、とも書いていた。
仁の手紙を読み終えた後、久子は改めて考えた。
欧州で夫に逢ったら、夫は何と私に声をかけて来るだろう。
やはり、子どもを捨てて来るな、と裏で叱られるだろうか。
後、あのカテリーナ・メンデスはどうしているのだろうか。
多分、私は下士官になっているので、私の方が上官だと考えたいが。
そんなことが、欧州に赴く直前の久子の脳裏には浮んでならなかった。
ご感想等をお待ちしています。




