第16章―2
米内藤子は、養母の久子の出征を(異母)弟妹3人と見送った後、暫く一人で木陰に入って、物思いに耽らざるを得なかった。
気が付けば、自分達が小林家に預けられて、約半年が経っている。
この戦争、第二次世界大戦が始まってから、もうすぐ1年が経とうとしているのだ。
そして、どうのこうの言っても、それなりに誰それの家に戦死公報が届いた、との噂が自分の耳にも入るようになっている。
何れはそうなると分かってはいたが、本当に父に加えて、養母も欧州に出征していくのだ。
父や養母は欧州から五体満足で生きて帰ってくるだろうか。
弟妹はそんなことまで考えが及ばないようで無邪気なのが、却って自分にはつらくてならない。
本当に早く戦争が終わって、父や養母が早く欧州から帰ってきてほしいモノだ。
白木の箱に入って両親が帰ってくることになり、靖国の子になる等、本音では絶対に私は嫌だ。
そう言えば、と藤子は改めて思い起こした。
カテリーナ・メンデスさんは、欧州でどうしているのだろう。
先日、カテリーナさんの妹アンナさんと自分は、偶々会った。
カテリーナさんとよく似た女性がいるな、とつい、私は見つめてしまい、それをきっかけにアンナさんと自分は知り合ったのだ。
アンナさんは、カテリーナさんに本当によく似た女性で、同じ学校に通っていればだが、義兄の仁と同級生になるそうだ。
(それを知った私は、義兄とアンナさんを絶対に直に逢わさないようにしよう、と即、決意したけど)
アンナさんによれば、自分の21歳の兄のカルロが、カテリーナさんが戦闘機乗りとして戦場に赴くことになったのを知り、姉だけを戦場に赴かせる訳には行かないとして、英軍のユダヤ人部隊に志願することを決めて、先日、英国に出立したそうだ。
そんなことから、横須賀のメンデス家には、カテリーナさん達の母のマリアさんとアンナさんだけしかいなくなってしまい、寂しい生活を送っているとか。
経済的には、少尉になったカテリーナさんからの仕送りもあるし、アンナさんもカテリーナさんが働いていたカフェで働いているので、特に問題は無いらしいが、そうは言っても姉と兄が出征していることから、マリアさんは不安でならないらしく、アンナさん自身も不安を覚えているとか。
それを聞いた私も、我が家の事情、父は欧州に出征しており、養母も間もなく欧州に出征するのを、アンナさんに伝えたところ、同病相憐れむではないが、お互いに同情心が湧いて、今後も時々、逢うことになっている。
(尚、このことは義兄の仁には絶対の秘密だ。
下手に知られては、義兄がアンナさんと浮気をする事態が起きかねない、と私の勘がささやいている)
そんなことを木陰で考えていたら、いつの間にか時間が経っていたようで。
「お姉ちゃん。お祖母ちゃんが探していたよ。お昼の準備を、今日は手伝ってくれないのかしら、と呟いてもいた」
妹の早苗が、木陰にいる藤子を見つけて、声をかけて来た。
藤子が空を見上げると、いつの間にか太陽が正午の位置に近づいている。
「ごめんね。ちょっと考え事をしていたら、時間が経ってしまったみたい」
そう早苗に言って、藤子は慌てて祖母のはるの下に駆けつけて台所に入り、昼食の準備をした。
そして、家族6人(藤子の祖父母と藤子、更に藤子の弟妹)の昼食が始まった。
「お祖母ちゃんのご飯がやっぱり良い」
松江が回らない舌で、昼食を食べ出して早々に言った。
「そうかい」
はるが複雑な表情を浮かべて言い、他の4人も似通った表情を浮かべた。
松江は、母の久子の料理に馴染んでおらず、はるの料理に馴染んでいるのだ。
藤子は想った。
養母が生還したとして、松江は母の味を受け入れるだろうか。
感想を読んだことから補足説明を。
アンナがカフェで働きだしたのは、カテリーナと入れ替わりのような形です。
その為に、仁はアンナの存在を、今のところは全く知りません。
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