第15章―3
そんなことを長男の米内仁が考えていることを知らないまま、米内久子は欧州派遣部隊の一員として、その為に必要な様々な準備に追われる日々を、その頃は送っていた。
その一方で、色々と心に浮かぶことが増えてもいた。
本当に、夫は大丈夫なのだろうか。
それこそ白木の箱に入って自分の下に来るようなことが無ければ良いのだが。
(白木の箱に入って、というのは戦死の婉曲表現)
夫がそうなったら、海軍の一員に自分もなっていることから、すぐに分かる筈だが。
負傷では、そういったことが自分にはすぐには分からない。
海兵隊はノルウェーに続いて、オランダにも派遣されて奮戦したのだが。
その結果、それなり以上の戦死傷者を出したらしく、その補充の必要等から、本来ならば、既に日本本国から出発している筈の第二海兵師団の出発を遅れさせる事態まで引き起こしているらしい。
そうしたことから考えれば、夫が戦傷を負っていてもおかしくないのだ。
久子は、補助部隊とはいえ、海軍の一員となったことから、そういった戦場の現実に改めて向き合うことになり、漠然とした不安を覚えるようになっていた。
その一方で、他の家族のことも、色々と久子は考えざるをえなかった。
長男の仁は、江田島、海軍兵学校で懸命に将来の海軍士官として、勉学に励んでいる。
速やかに戦争が終われば良いのだが、もしも長引けば、長男も戦場に赴くことになるだろう。
どうにも自分には気に食わない存在なのだが、養女の藤子は懸命に仁以外の自分の実子達の面倒を見てくれていて、それこそ自分の故郷の岩手県の様々な産物を使った料理まで、時折食べさせてくれている。
このことについては、藤子に素直に感謝せざるを得ないのだが、結果的にだが、自分の料理の味を実子達は忘れつつあるようで、忸怩たる想いがどうしてもしてしまう。
勿論、その発端が、自分の我が儘のせいなのは重々承知しているので、自分の子ども達、早苗や正、松江には本当に申し訳ない、と久子とて内心で謝罪せざるを得ない。
そんなことを想う一方で、カテリーナ・メンデスのことが、自分には気に掛かってならない。
自分にはカテリーナ・メンデスがどうしているのか、それを知る伝手が無い。
夫や息子の仁の口ぶりからすれば、自分と同じように女性補助部隊に志願している筈なのだが。
それが陸海空軍の何処なのかさえ、自分には見当がつかないのが現実だ。
そうは言っても、女性である以上は、後方勤務なのだろうが。
本当に何処にいるのだろうか。
新聞等に依れば、英領パレスチナ部隊の一員として、ユダヤ人部隊がオランダにて奮戦し、更にはフランス本国への撤退に成功したようだが。
この部隊は男性のみで編制されているようで、更に言えば、女性補助部隊はいなかったようだ。
そうなると、カテリーナは英本土にいるのだろうが。
久子はそんなことまで思わず考えた。
そんな軍務以外のことを考える一方で、久子は自分が共に行動して、欧州に赴く航空隊のことを改めて考えざるを得なかった。
久子は航空隊の整備部隊の一員として欧州に赴くことになっているのだが、この航空隊は97式大艇を装備している。
横浜航空隊を基幹として、欧州に派遣されるべく編制された新編の航空隊である。
尚、他にも戦闘機を装備する基地航空隊が、欧州に赴くことになっており、その中には陸軍航空隊も入るらしい、との噂が自分の耳に入っている。
それはともかく、97式大艇は、それこそ対潜哨戒や海難者の救助等が主任務の筈で、本来から言えば、欧州に派遣される必要は無い気がして、自分はしょうがない。
何か裏があって、欧州に派遣されるのではないか。
久子はそんなことを考えざるを得なかった。
先日、ネット仮想戦記を色々と読み歩いていたら、
「白木の箱に入って」
という表現について、
「作者の自己満足表現にも程がある。現代に合った表現をしろ」
等と叩く感想が。
そんなことから註釈を入れました。
本当に言葉狩りは厳しくなる一方のようです。
ご感想等をお待ちしています。




