第11章―3
そんなことが米内久子の傍では起こることになったのだが、先に米内藤子やその異母弟妹の身に起こったことを描くならば。
「御祖母様、実母が食べて育った料理の作り方を、私は改めて学びたいのです。私も小学6年生です。そろそろ料理の一つも出来て、当然ではないでしょうか。手始めに暇があれば、御祖母様の料理の手伝いをしたいと考えます」
「それは良い心掛けだね」
(養母の久子の手紙による示唆を受けた)藤子と藤子の実の母方祖母の小林はるは、そんな会話を交わした末、藤子ははるの料理を折を見て手伝い、料理法を学ぶことになった。
その一方、藤子の下には、岩手県にいる父方祖父母や、養母の久子の両親、更にはその親戚からの様々な地元の食材、例えばクルミ味噌等が、調理法のメモを添えて届く事態が、度々起きることになった。
言うまでもなく、久子の裏行動によるモノである。
藤子と同居している祖母のはるにしてみれば、全く馴染みのない食材であり、どう調理すればよいのか、更にはどう食べればよいのか、と困惑する事態さえ起きることだった。
だが、その一方で、藤子やその(異母)弟妹が、そういった食材が届く度に、目の色を変えて、
「これって美味しいのよね」
「早く料理をして食べたいね」
そんな会話を交わしていては、祖母のはるにしても、こういった食材を捨てる訳には行かない。
それに勿体ない、という心理にも、祖母のはるは駆られてしまう。
そうしたことから、藤子が、
「(養母の)久子母さんから料理法を見聞きしていますし、自分の腕試しも兼ねて、台所を使って、この食材を使った料理をしたいのですが良いですか」
と祖母のはるに言うと、はるはそれを受け入れるようになった。
(尚、本当のところを言えば、久子から藤子宛への手紙の中で、そういった食材を使った料理のレシピ(料理法等)が書いて送られてもいたのだ。
それによって、藤子は、かなり不器用ながら、そういった食材を使った料理を作ることができた)
その末に。
「うーん、かなり濃い味付けだね」
「御祖母様の料理は、基本的に薄味で、素材を活かしたモノが多いですから、お口に合わなくても仕方ないです。でも、私の父や養母が育った土地は、冬になるとかなり冷えますし、夏でも冷夏になることが珍しくありません。そうなると、どうしても濃い味付けを料理に求めるようになるとか。そんなことから、こういった濃い味の料理が多くなるのです」
「成程ねえ」
祖母と孫娘は、そんな会話を折に触れて交わすようになった。
そんな会話を聞きながら、早苗や正は(密やかに)涙を流しながら、岩手県の地元から届いた食材を使った料理に舌鼓を打つ事態が起きていた。
何しろ、藤子が作った料理は、久子のレシピに基づいて作られた料理なのだ。
早苗や正にしてみれば、それこそ出征した母が思い起こされる味がする料理に他ならなかった。
早苗と正は、陰で言い交わした。
「本当に早く戦争が終わって欲しいな」
「そして、戦争から帰還して来た母の手料理を食べたいね」
そんなことが少なからず積み重なった末(つまり、実際には数か月後のことだが)、はるは孫娘の藤子に対し、二人きりのときに密やかに話していた。
「どうのこうの言っても、育ちも大きいのだねえ」
「何をいきなり言うのです」
「うん。実の孫が、私の味とは違う味を好むようになっているとはねえ」
はるは、敢えて藤子から目を逸らせながら呟いた。
「仕方ない。あんたは私の味を知らず、養母に育てられたのだから。でもねえ」
藤子は無言ではるに抱き着いた。
藤子も、どうにも言葉に出せなかったのだ。
はるも藤子を抱き返し、祖母と孫娘は何時か共にすすり泣き始め、暫く泣き続けた。
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