第10章―18
さて、米内洋六少佐と佐藤准尉の会話というか、推測だが、そのかなりの部分が当たっていた。
首都オスロを始めとするノルウェー南部(の一部)をドイツ軍は占領下においており、其処にそれこそ航空隊までも展開して、ドイツに言わせれば、不当な英仏日の侵略からノルウェー解放の為に奮闘しようとしていたのだが。
このことは、ノルウェーに展開しているドイツ軍にしてみれば、様々な意味で悪夢を引き起こした。
「ドイツ空軍の戦闘機をオスロに展開して、防空任務等を展開するとのことですが、必要な燃料は充分にあるのですか」
「自動車用の低オクタンガソリンを活用しろ、とのことだ。航空機用のガソリンを大量に運んで、空軍部隊を本格的に運用できる余裕はない」
「無茶苦茶ですよ」
「総統命令だ。低オクタンガソリンを活用して、オスロ防空任務を果たせ。ノルウェーにも、自動車用の低オクタンガソリンまで含めれば、それなりにはあるとのことだ」
そんな会話が、例えば、ドイツ空軍内で交わされる事態が起きた。
実際、ノルウェー侵攻作戦は、ある意味では成功しているのだ。
首都オスロは、ドイツの手に落ちており、更には、クヴィスリングが親ドイツ政府を樹立して、首班を現実に務めてもいる。
こうした中で、ドイツが、クヴィスリングを首班とする親独ノルウェー政府を積極的に見捨てては、今後、親独政府が占領地で樹立される可能性は激減するだろう。
そして、クヴィスリングを首班とする親独ノルウェー政府は、ドイツに対して、ノルウェー国民の生活、民生の為に積極的な支援を求めてきているのだが。
それこそ既述だが、ノルウェーに展開するドイツ軍を維持する為の補給物資を、ドイツ本国から送るのさえ、様々な問題が起きているのが現実なのだ。
そうした中で、ノルウェー国民の為の生活物資を、ドイツ本国から大量に送る等、不可能と言って良い事態が徐々に起きつつある。
更にこうした状況を踏まえて、英国のBBCを始めとする親英仏日の報道機関は、
「ノルウェーの国民が幾ら餓死しようとも、ドイツ軍は蚊に刺された程の痛みも感じない、として積極的に物資輸送は行われていないのが現実なのだ。所詮、ドイツにとって、ノルウェーの国民はその程度の存在なのだ。嘘の報道をするな、と言われるだろうが、クヴィスリングもその通り、とヒトラーの足を舐めながら言っているとのことで、ノルウェー国民の生活物資は、欠乏しつつある」
という報道を垂れ流すようになっている。
そして、その一方で、ナルヴィクやトロンハイムに、日英仏政府が、大量の民生物資を揚陸する状況を、別途、親英仏日の報道機関が積極的に報道するような事態が起きてもいる。
こうした報道について、ノルウェーに駐留しているドイツ軍や、クヴィスリング率いる親独のノルウェー政府は、積極的に取締りを行うことで、報道の影響を排除しようと努めているのだが、却って親英仏日の報道こそが、真実を報道しているとして、ノルウェー国民の共感を呼ぶ事態さえ起きることになった。
ともかく、こういった事情が相まって、ノルウェー国内のドイツ軍占領地域では、反独レジスタンスの活動等が徐々に活発化することになった。
そして、英仏日も、こういったレジスタンス活動を積極的に支援することになり、様々な物資提供等が行われることになった。
こういった状況から、ノルウェーからの撤退を、ドイツ軍最上層部の一部は、ヒトラー総統に求めるまでに至ったが。
ヒトラー総統は、
「ゲルマン民族を見捨てる訳には行かない」
等と主張して、ノルウェー保持を譲らなかった。
このことは、少し後になるが、ドイツにとって多大な損害を蓄積することになった。
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