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第10章―16

 何故にそのような事態が起きたのか、というと。


「何でドイツ軍は、日本の空母部隊を始めとする日英海軍の威力を軽視していたのかね」

「最も日本の航空隊の挙げている戦果ですが、かなり誇張されているみたいですがね」

 ベルゲン近郊の陣地内において、米内洋六少佐と佐藤准尉は、そんな雑談を交わしていた。


 米内少佐は、かつて第二次上海事変が起きる前に世話になった佐藤准尉と再会していたのだ。

 佐藤准尉は、第二次世界大戦勃発に伴う再招集によって、戦時動員等を果たして編制された第一海兵師団に配属され、米内少佐の部下になる海兵小隊長になった。

 そして、従前、上海時代のつながりもあり、米内少佐の腹心の部下といえる存在になっていたのだ。


 佐藤准尉は言うまでも無いことかもしれないが、それこそ兵からたたき上げの准士官である。

 そうしたことから、部下の下士官兵にしてみれば、佐藤准尉は仰ぎ見るべき身近な存在でもあるし、更に自らの経験等から、色々とそれなりに佐藤准尉は裏にも通じている。


 陸軍でも准尉、特務曹長となると、それこそ叩き上げの准士官として、様々な表裏の事情通になっているのが当然だが、この辺りは海軍、海兵隊でも同様の状況だったのだ。


 そして、佐藤准尉は、そうして得た事情、噂話等を米内少佐に伝え、話し合う事態が起きていた。


「ともかく公式発表では、日本海軍と交戦の末、シャルンホルスト級戦艦2隻、ドイッチュラント級装甲艦3隻、駆逐艦14隻等を、ドイツ海軍は喪失したことになっています。それに対して、日本海軍は、軍艦の損害は金剛が小破したのみで、航空機の損害にしても、発着艦の際に事故等で失ったモノまで含めても、12機を喪失しただけで済ませているとか。尚、日本海軍の戦死者は数十名単位に対して、ドイツ海軍の戦死者は既に数千人単位に達し、陸軍まで入れれば、ドイツ軍のノルウェー戦における戦死者は、既に1万人を越えているという噂が流れています」

「それは凄い戦果だな」

 佐藤准尉の情報による驚きは、米内少佐の目を丸くさせる程だった。


「そして、古賀峯一中将は東郷平八郎元帥の再来、小沢治三郎少将は上村彦之丞大将の再来だ。日本海海戦以上の大戦果だ、という報道まで、日本本国では流れているそうですよ」

「確かに、そのような報道が為されてもおかしくないな」

 二人のやり取りは続いた。


(尚、佐藤准尉はともかく、この暫く後で、米内少佐は、娘の藤子や妻の久子からの手紙で、その報道が実際に流れたのを知らされることになった)


「最も実際のところはですが、日本海軍航空隊の雷爆撃の命中率は、件のドイツの装甲艦3隻に対するモノについて、実際には雷撃、急降下爆撃共に多くとも2割程ではないか、と推測されているようです。リュッツオーやシェーアで生き残った乗組員は、本当に併せても両手で収まる人数で、生き残った面々に聞いても、どれだけ魚雷や爆弾が命中したのか、よく分からないそうですが」

 佐藤准尉は、一旦、そこで言葉を切った後で続けた。


「グラフ・シュペーの乗組員は、数百人単位で生き延びたので、どれだけの魚雷や爆弾が命中したのか、問い質すことで、それなりのことが分かりました。実際に命中したのは、魚雷4本、爆弾4発といったところで、更に両舷に2本ずつ被雷したことから、グラフ・シュペーは、何とか攻撃を耐え抜けたようです」

 佐藤准尉は、皮肉を込めた口調で言った。


「確かに、実際のところは、そんなものだろうな」

 米内少佐も皮肉を込めて言った。


 そして、二人共に考えた。

 日本海軍航空隊の攻撃は、薄暮、夜間の攻撃と言って良かったのだ。

 そうしたことからすれば、実際の命中数はその程度だろう。

 幾ら何でも実際の命中数と、戦果報告が違い過ぎ、と言われそうなので補足。

 この辺りは史実でもよくあったこと、と私は理解しています。


 実際問題として、雷撃による水柱が自分の雷撃なのか、共に攻撃した者の雷撃なのか。

 又、爆弾投下にしても、実際に敵に命中したのか、至近弾で水柱を上げただけなのか。

 戦場で何処まで精確に確認できるでしょうか。


 そんなことから、過大な命中報告が起きて、又、敵も、味方がそれだけの猛攻に耐え抜いたとして、それを認める事態が、現実でも起きるのです。


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