第10章―14
もっとも、そういったことについては、ドイツ軍の方が、もっと深刻だった。
それこそドイツ軍の最大の敵は、伝統的にフランスが第一、次がロシア(ソ連)と言っても過言ではない。
そして、フランスやソ連に対して、大規模な上陸作戦を展開する必要があるのか、と言えば。
そんな上陸作戦を展開できるだけの資材等の準備をする位ならば、他のモノに回せ、という話が出るのが、ドイツ軍内部では当然のことだった。
だから、ノルウェー侵攻作戦に際しても、いわゆる上陸作戦に熟練した海兵隊を投入する等は夢物語と言って良く、それこそ山岳兵等まで駆り出して、上陸作戦を展開する事態が起きたのだ。
こういった英仏独に対して、日本はと言うと。
それこそ建軍以来というと大袈裟だが、少なくとも日清戦争直前以降は、海を渡っての侵攻作戦、それも清(後の中国軍閥や国民党軍)やロシア(ソ連)といった大兵力を持った陸軍国との交戦を想定して、陸軍は整備され続けて来た現実がある。
だからこそ、第五師団を始めとして上陸作戦を展開する為の部隊が整備され、又、様々な上陸作戦用の資材が、日本では調えられてきたのだ。
そして、第二次上海事変等の日中戦争における手痛い敗戦から、海軍内の特別陸戦隊が改編されて海兵隊が常設されることになり、更には日本陸軍が培ってきた様々なノウハウが、海兵隊に提供されるという事態が起きることにもなった。
そうしたことが、第一海兵師団がベルゲンに急行して、活躍できる下地を作ることになったのだ。
そして、ベルゲンに上陸した第一海兵師団だが。
2月15日現在、米内洋六少佐は、ベルゲンにいる海兵大隊長として、考え込む事態が起きていた。
自分としては、ベルゲンを確保している以上、一部をもってベルゲン防衛に当たる一方、主力をオスロ解放に投じるべきではないか、と考えるのだが。
英仏両国政府や軍上層部は、どうも混乱状態にあるらしく、積極的な行動を躊躇う事態が起きているらしい、との怪情報が自分達の下に届いている。
実際に積極攻勢を採りたい旨、意見具申を行った第一海兵師団司令部に対して、増援が駆けつけるのを待つように、という指示が届いては。
自分としても、その情報が正しいのではないか、と勘繰らざるを得ない。
さて、何故にこのような状況に、2月半ばの第一海兵師団があったのか、というと。
既述だが、ドイツ軍のノルウェー侵攻は、英国の謀略等によって引き起こされた、と言っても過言では無かった。
だが、その侵攻作戦の規模は、完全に英国政府や軍上層部の予想を超えていたのだ。
そうしたことが、英国政府や軍上層部の自信喪失と言っても良い事態を引き起こしており、どのようにノルウェーの解放を進めるべきか、という積極的な方策を示すのを躊躇う空気を引き起こしていた。
更に厄介なのが、このドイツ軍のノルウェー侵攻という事態を招来した背景に、英国の謀略がある、というのが、既存のノルウェー政府上層部にとっても見えていたということである。
確かにドイツの侵略は許されないことで、戦うしか無いが、だからといって、こうなった最大の要因は英国の謀略ではないか、それなのに英国に恩を着せることになる救援要請を、ノルウェー政府として積極的に行えるのか、というと。
理性からすれば、ノルウェー軍単独でドイツ軍を祖国から追い払うのは困難である以上、英仏日に協力を仰がねばならないのは分かるのだが。
だからといって、感情的には英仏日に協力を仰ぎたくない、と言う心理にノルウェー政府上層部の面々が駆られるのも、ある意味では当然だった。
こうしたことが、ノルウェーでの積極的な行動を押し止める事態を引き起こしていた。
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