第10章―12
こうした状況下に、2月10日頃のノルウェーはあった。
ドイツ海軍は大打撃を受けており、急速にベルゲン以北への侵攻能力が失われつつある、と言っても過言では無かった。
幾ら何でも、ノルウェー沖合の制空、制海権無くして、ベルゲン以北へのドイツ陸軍の侵攻作戦を本格的に行うのは不可能に近い。
だが、オスロ方面を抑えて、首都を手中に収めたのは、ドイツにとって大戦果で、オスロ近郊の空港等を活用して、陸空軍戦力をノルウェーに展開させようと努めることになった。
それによって、戦力を調えた上で、攻勢を展開しよう、更にはノルウェー政府を味方にしよう、とドイツ政府や軍は策す事態が起きることになった。
その一方で、英日仏軍にとっても、すぐに打てる手は乏しかった。
ノルウェー救援の為に備えていた日本の第一海兵師団が、速やかにベルゲンに上陸して、其処に展開していたドイツ陸軍を追い払ったのは大きかったし、ドイツ海軍戦力が大打撃を受けたのも事実だったが。
そうは言っても、ノルウェー救援の為に更に大兵力を投入するのは、それこそ独仏国境の緊張が高まっていて、いつ本格的な戦争に突入するのかわからない状況とあっては、躊躇わざるを得ない。
更に言えば、中立を侵犯されたノルウェーの国民が、ドイツと英日仏、何れをより支持するか、今一つ不明確なところがあり、そういったことも、英日仏軍の積極的な行動を躊躇わせた要因だった。
だが、こうした状況に、ある意味では部外者が動いたことが、更なる事態を引き起こした。
2月10日朝、ノルウェーの首都(と言っても、王室や政府首脳部は脱出済みで、首都機能は既に失われていると言っても良かった)オスロにある国営放送局を、とあるノルウェーの政治家とその支持者達が占拠する事態が起きた。
その上で、その政治家は国営放送局を通じて、声明を発表した。
「私、クヴィスリングは、ここにノルウェー臨時政府の樹立を宣言する。これまでの首相、ニューゴースヴォル及び王室の面々は、日本に我が国を売り渡す暴挙を仕出かしたのだ。真の愛国者である私は、この危難を知って、直ちにドイツ政府に救援を求めたところ、速やかにドイツ軍がノルウェー救援の為に駆けつけてくれたのだ。ノルウェーの愛国者達よ、日本とそれを支援する英仏の侵略者に対して、速やかに武器を取って抗戦しよう。私は、この祖国の危機に際して、臨時政府首班の重責を負って、祖国を侵略者から守るために戦う決意を固めたのだ」
そうクヴィスリングが声明を発すると、その中継現場からは、
「ノルウェー万歳。ドイツと積極的に協力しよう」
「日本に祖国を売り渡した王室や首相達を、断じて許すな」
「侵略者である日英仏に対して、武器を取って立ち上がれ」
等とクヴィスリングの支持者が歓声を上げる場面が、垂れ流される事態が起きた。
だが、このことは却って、ノルウェーの国民の多くを、英仏日に奔らせる事態が起きた。
クヴィスリングは、この当時のノルウェーの極右政党、国民連合の党首を務めていた元軍人である。
そして、国民連合の支持率だが、国民の2%にも満たない弱小政党だった。
更にいえば、クヴィスリングは、ヒトラー総統率いるドイツ政府と積極的に提携しよう、と予てから試みており、更にそれを周囲に誇示していたのだ。
だから、国営放送局を占拠して行ったクヴィスリングの行動は、多くのノルウェー国民から、ドイツ政府と手を組んだクヴィスリングが、ノルウェーを売り渡そうとしている証、と考えられる事態が起きた。
その為に対ドイツの様々な抵抗活動、レジスタンス等に多くのノルウェーの国民が、積極的にこの後で参加し、ドイツ軍の苦戦を招いた。
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