第10章―7
この時期に陽炎型駆逐艦2隻が欧州に赴いているのは、史実的には少し難しいのですが。
突貫工事で何とかなった、と脳内補完をお願いします。
「夜戦こそ、日本海軍のお家芸だ。そして、我が第二水雷戦隊は、いざと言う際の対米艦隊決戦の際に、第二艦隊の一員として、米太平洋艦隊に夜戦で襲撃を掛ける為に訓練を重ねて来た部隊だ。我が第二水雷戦隊が、夜戦においては、世界最精鋭の水雷戦隊であることを、この際に証明してくれる」
第二水雷戦隊司令官を務める五藤存知少将は、自分が座乗する軽巡「神通」を先頭にして、指揮下にある朝潮型駆逐艦6隻、陽炎型駆逐艦2隻が、ドイツの巡洋戦艦に対する襲撃行動を実施しつつあるのを、自らの心眼で見ながら、呟くように言った。
それを聞いた参謀達の多くが想った。
我が第二水雷戦隊は、それこそ対米戦争における一大艦隊決戦において、日本海軍に夜戦による勝利をもたらす為に猛訓練を積み重ねて来た部隊だ。
それが、何とも皮肉なことに、この(第二次)世界大戦において、ドイツ艦隊に対する夜間の襲撃行動を、北大西洋において行う事態が起きると、どれだけの人が予測できていただろうか。
そして、この海戦は、我が日本海軍が艦隊決戦における切り札、秘密兵器として開発して来た93式魚雷、酸素魚雷の初陣にも結果的になる。
でき得るならば、ドイツ巡洋戦艦2隻を沈めて、見事な初陣を飾らせたいものだ。
そんな五藤少将や参謀達の想いが、どれだけ届いたのか。
第二水雷戦隊の襲撃行動に対して、ドイツの巡洋戦艦2隻は、従前通りの速度で航行し、更に進路も変えようとしなかった。
その一方、何らかの発光信号を煌めかせているようにも、一部の参謀には見えていた。
「舐めおって。日本海軍の水雷戦隊では、ドイツの巡洋戦艦を沈めることはできない、と考えているのか。その誤りは命で支払ってもらうぞ」
ドイツの巡洋戦艦の行動を見た五藤少将は怒りを秘めた声を挙げた後、出来る限りの接近をした上で、
「全艦、統制魚雷戦を実行せよ」
と隷下の駆逐艦に対して、命令を下した。
この時、神通には酸素魚雷の発射能力は無く、隷下にある朝潮型駆逐艦6隻、陽炎型駆逐艦2隻、合計64本の酸素魚雷が、ドイツの巡洋戦艦2隻に向かうことになった。
(細かいことを言えば、神通も従前の空気を使う90式魚雷、8本を発射している。
魚雷が命中する直前の頃、ドイツ巡洋戦艦2隻が急に転舵したのは、神通が発射した魚雷に気付いた為という説が唱えられている)
そして、ドイツの巡洋戦艦2隻は、ようやく第二水雷戦隊を敵と認識したようで、急に転舵を行うと共に、主砲や副砲の砲口を第二水雷戦隊に向けて、発砲を開始した。
(尚、第二水雷戦隊は、敢えて砲撃を行なっていなかった。
ドイツの巡洋戦艦が発砲してこない以上、自らの発砲炎で、自分達の見張り員の肉眼による偵察能力が落ちるのを警戒すると共に、もしも、自分達を味方と誤認しているのならば、その方が好都合、と五藤少将以下の第二水雷戦隊司令部の面々は考えたのだ)
だが、それは余りにも遅かった。
ドイツの巡洋戦艦2隻は、相次いで共に複数の水柱を上げた。
「何本、当たった」
「前の巡洋戦艦には少なくとも5本、後の巡洋戦艦にも少なくとも6本は命中した模様」
五藤少将の問いかけに、見張り員からそのように報告が届く。
実際に五藤少将が双眼鏡を使ってみる限りでも、10本以上は水柱が上がっているように見える。
「やったな。長門といえども、沈むだろう」
五藤少将は快哉を叫び、傍に居る参謀達も相次いで同意の声を挙げた。
実際に五藤少将が言う通りだった。
正確な命中数が分からないとはいえ、一度に93式魚雷を5本以上も片舷被雷しては、長門と言えども沈むだろう。
ドイツの巡洋戦艦は2隻とも急速に被雷した側に傾いて横転し、沈没していった。
史実のサボ島沖海戦のオマージュのような流れで、五藤少将が出てくるのはやり過ぎ、と言われそうですが、この辺りは史実のこの時期に五藤少将が第二水雷戦隊司令長官を務めていたのを踏まえています。
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