第10章―5
スカパ・フローから出撃した遣欧艦隊主力は、正規空母4隻、金剛級戦艦4隻、妙高級重巡洋艦4隻、第2水雷戦隊、第4水雷戦隊から成っていた。
古賀中将は、この艦隊を二つに分けることにした。
正規空母4隻と重巡洋艦4隻、第4水雷戦隊から成る機動艦隊と、金剛級戦艦4隻、第二水雷戦隊から成る水上打撃艦隊である。
そして、古賀中将自身は金剛に乗艦して、遣欧艦隊の総指揮を執ると共に、自らは水上打撃艦隊を直率することにした。
これは正規空母を含む艦隊が、砲撃戦に巻き込まれるリスクを勘案したことから行われたものだった。
更に言えば、どうのこうの言っても、空母の通信能力は戦艦より落ちる。
こうしたこともあって、古賀中将は金剛に将旗を掲げることになったのだ。
そして、正規空母4隻等からなる機動艦隊を指揮することになったのは、先任順から第一航空戦隊司令長官である小沢治三郎少将ということになった。
古賀中将と小沢少将は、スカパ・フロー出撃直前に膝を交えて議論をし、基本方針を確認した。
「見敵必戦ということで頼む」
「分かりました。ところで、水上打撃艦隊はどちらに向かわれますか」
「トロンハイム方面へ、まずは向かうつもりだ。空母等は、ナルヴィク方面を目指してくれ」
「逆にしませんか。夜が長い時期です。それこそ水上砲撃戦に、空母部隊が巻き込まれかねません。確かに訓練を重ねましたが、実戦において自由に夜間の発着艦が出来る程の練度が、空母部隊に搭載されている航空隊全てにはありません」
「確かに、そう言われればそうか」
小沢少将の言葉に、古賀中将も同意した。
実際、小沢少将の言葉は間違っていなかった。
幾ら何でも、ドイツ艦隊の砲撃を浴びる危険がある中で、更に夜間に航空隊を自由自在に出撃させる等、幾ら質的には世界最精鋭を自負する日本の空母部隊にしても、不可能な話に近い。
「まずは、水上打撃艦隊はナルヴィク方面を目指しましょう。その上でノルウェー沿岸沿いに南下して、ドイツ軍がノルウェーに上陸作戦を展開するのを阻止するのです。尚、機動艦隊は、ノルウェー沖合に展開して、索敵攻撃に努めるのです」
「ふむ。夜が長い時季なのも考えあわせれば、それが最良の判断だろうな」
小沢少将の提言に、古賀中将は最終的に同意して、遣欧艦隊主力は、そのように動き出した。
尚、こういった日本の遣欧艦隊主力の行動だが、既述のように、英海軍本部からすれば、事後承諾の行動に完全になってしまった。
だが、英海軍本部は、日本の遣欧艦隊主力の行動を、結果的に追認することにした。
何故かと言えば、英海軍内部では、ドイツ水上艦の大挙出撃は、北海から北大西洋において大規模な通商破壊戦を展開する為だ、という主張が極めて強かった、という事情がある。
その作戦を阻止するとなると、皮肉なことにノルウェー沿岸方面をがら空きにするしかない。
だから、その穴埋めに日本の遣欧艦隊主力が行動する、というのは英海軍本部にしてみれば、極めて有難い話だった。
万が一、自分達の予測が間違っていても、日本の遣欧艦隊主力が、ドイツ海軍の行動を阻止してくれることになる。
そして、自分達の予測が正しければ、それこそドイツ海軍に対する戦果を、日本艦隊は挙げることが出来ず、自分達が独占することが出来るのだ。
そう考えて、英海軍本部は、日本の遣欧艦隊主力の行動を、この時に追認したのだが。
このことは、何とも皮肉なことに、ノルウェーを巡る様々な戦闘に際して、日本海軍の武名を高める事態を後に招来することになる。
そして、日本海軍は、師匠である英海軍を凌ぐ弟子に完全に育っていた、と世界で謳われる事態が引き起こされることになるのだ。
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