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開口にして邂逅の言葉




「“白煙雲道”」


 左手に古代魔法“ビブリオテカ”を発動させ、同時に中級・自然魔法“白煙雲道”を発現させる。

 リリィとの戦闘で、持っているほとんどの魔法を消費したが補充するのは簡単だった。何せアズール随一の図書館があるのだから。当然既に使った魔法は使えないのだけれど、魔法大国を誇りしアズールには多種多様な魔法が存在する。並行してそれを記した魔法書も然りだ。

 白くふわふわで、かつ上をスケボーに乗るように滑走することが可能な雲の道を召還した。自分の意志で自由自在に雲道を展開できる。滑走しながら夕日の光を頼りに、空洞と化した本湖を行く。同時、上空より声が聞こえた。


「シルドくん、上!」


 シャルロッティアさんが以前投げた本は、十数秒後に本らが回収した。本らが反応するのに十数秒かかった。


「まだ五秒もたってないはずだけどな……!」


 落下して数秒後、上空より二十の本らが田舎貴族目掛けて急接近してきた。常識的に考えれば人が落ちたのだ、当然の反応といえるだろう……。が、今回ばかりは本の救助を受け入れるわけにはいかない。


 緑色に発光する本を左手に、ジグザグ状に“白煙雲道”を展開させ、雲道を今の速度よりもグッと加速して滑走する。本らも併せるようにこちらへ速度を上げてきた。雲の上に乗れば自動的に足と雲が接着されて落ちることはない。何だか前世のジェットコースターを連想してちょっと懐かしくもある……なんて浸ってる暇はないよね。数倍怖い。

 雲を滑りながら右を見る。

 あるのは轟々と佇む岩の壁。

 アズール図書館を支える巨大な柱型の岩壁を中心にして、時計回りで滑り行く。もちろん後方より本の尾行付きだ。そういやジンは大人しく帰ったぽいけど本当に帰ったのかな……? 尾行とかされてたら明日イジられそうで嫌だな。


「特に目ぼしいものは……ないか」


 本が囲もうと、掴まえようとするのを数回かわしながらも岩壁を注意深く観察する。しかし、これといって仕掛けのようなものはなく、ただただ悠然と岩の分厚い柱があるだけだ。二人で考えた読みは外れたのか。それとももっと奥に、深く行く必要があるのだろうか。

 “白煙雲道”を操作して斜めに滑り降りていたのを、角度を変えて一気に下へ向ける。

 急角度で息を呑むほどの怖さであったが、何とか意識を保ってそのままさらに進み落ちる。岩壁の最深部に、もしかしたら入り口があるのかもしれない。ただ、本湖の最深部は夕日の光が届かないから必死で目を凝らすしかなく、不安もつきない。


 真後ろからバラララ……とページが激しく捲れる音が聞こえる。

 後ろを見る暇はない、何か仕掛けてくると直感し、“白煙雲道”を急角度の状態から瞬時に横へ展開させた。追ってくる本からすれば、落下するように滑り落ちていっている目の前の男がいきなり落下滑走を止め真横にそれたのだ。


 それた直後に後ろを振り返ると、咄嗟のことに反応できなかったのか本らは下へ落ちていった……が、すぐさま戻ってきて追撃を再開してきた。

 見れば、本らは「ひし形」の隊列を組んでいて、反時計回りに回転しながら移動している。さらになんと、ひし形の内部から怪しい薄紫の光が漏れて……中から本が召還された。何十冊も。


「工場かよ」


 突っ込みをする余裕があるうちはまだ大丈夫だ。

 今度はひし形の隊列から「二等辺三角形」となり、鋭角の部分を僕に向け、さながらジェット機のような隊列で突進してきた。

 先ほどよりも速い……! これは追いつかれる! “ビブリオテカ”は現在緑色に発光して見開いている状態だ。そこを軽く叩き、小さく「同時発動」と唱える。中級・自然魔法──

 

「“踊る雷子”」


 自分の後方よりプラズマの球体を十数個召還。

 ジェット機隊列の本がダイレクトに直撃し、けたたましい雷撃音を靡かせながら破散した。

 ……と、思った、時だった。二冊の本が先回りをして“白煙雲道”の一部を破壊した。


「ッ!?」


 何とか破壊させられた一部を跳んで続きの雲に乗ろうとするも、読んでいたかのように一冊の本が着地しようとした僕の右足を横から突進した。後ろにいた本らは囮か!

 バランスを崩す。

 反射的に“ビブリオテカ”を閉じてしまい……“白煙雲道”を消滅させてしまった。僕のミスだ。気が動転していたことと、意識が完全に後ろに向いていたことの雑念二つが原因だ。理由はあれど、結果的には……落下する。もうこの魔法は使えない。


 落ちながら空を見上げた。

 視界の隅には岩壁が映り、真上には橋も見えた。夕空を覆うような本の絢爛も。

 僕を追う本数は既に百を超えていて、随分と増えたものだ。


 今度は螺旋階段のような形態で僕へと向かってきている。残り数秒もすれば無事救助されるだろう。仮に治安部隊が来たとしても、うっかり飛び込んでしまった貴族科の学生として処理されるに違いない。

 生憎、他に空を飛べる魔法は持ち合わせていない。いや、もしかしたらそれに準じた魔法書を読んでいたのかもしれないが、今頭に思い浮かばないのだ。

 茫然自失。

 まるで映画のワンシーンのように本の螺旋階段が綺麗に見える。凄いなぁ、美しい。


 だが、はたしてこれでいいのだろうか。

 いいのだろうか、と思っても実際はもう策がない。創造魔法で最深部にクッションのような魔法を作ったとしてもすぐに本に捕らわれて終わりだ。今必要なのは本の追っ手を難なく交わしながら岩壁の調査ができる魔法。

 ない。

 いよいよ迫ってくる本の群れ。多すぎだろ。どうにもこうにも今日はこれまでのようだ。無念だが、次に賭けるしかない……?


「あっ」


 何故か目の前の本らが止まって見えるかのような錯覚に陥りながら思い出す。そういえば。

 確か、あの半纏を着て、煙管を銜えていた女性と会ったのも。こんな夕日が綺麗な日だった。

 思い返せば、何とも不思議な出会いだったと思う。驚くしか他になかった本湖もさることながら、夕方になった時に発動した創造・陣形複合魔法の絢爛。後ろからやってきて「中の上」とか言ってきた可笑しくも不思議な女性。そんな彼女に対し、ほんの少し背伸びをしてカマをかけた問い。彼女は笑ってこう言った。


『……ハハッ。上の下』


 あの言葉を、僕は様々な面から解釈し、一つの答えを出した。

 けれど、それからは一つの進展もなく辛い毎日だった。そんな僕を救ってくれたのがジン、リリィ、ゴードさん、そして……桃髪の麗女。感謝しかない。明日、このことを皆に話すのも悪くないだろう。手を広げ、本が僕の手に触れようとするまで残り数センチ。


『最後にもう一つだけ、青少年。開口にして邂逅の言葉は……』


 手と、本が触れる直前の直前。頭をよぎるは……彼女が言った、最後の言葉。

 結局のところ、先の言葉を最後に突如として風が吹き荒れて、僕は目を伏せてしまい、再度前を見た時にはもう、彼女は消えていて。

 ……あれ。

 その時、何か起こらなかっただろうか。今と「似たようなこと」が、起こらなかっただろうか。何だ、何だっけ。見れば、本が触れようとするこの一瞬が、とてもゆっくりに見える。じっくりと本の一ページ一ページが細かく見て取れる。思い出せ。何か見落としていないか。とても重要な何かを見落としていないか。あの時。突風が吹き荒れた直後。


 十数冊の本が、落下していったはずだ。


 その本は、再び上がってくることは……なかった。なかったのだ。何故だ。普通、シャルロッティアさんが投げた本のように本湖へ落下したものは捕らえられて持ち主に返すために上がってくるはずだ。例え人であったとしても、救助したのなら同じはず。が、落下していった本は、結局上がってこなかった。

 落ちたのが物ならば、十数秒後に落下する。

 落ちたのが人ならば、僕のように即座に反応して落下する。あの日、突風が吹き荒れて半纏の女性が消えた直後、本は……即座に落下した。ならあの時本湖に落ちていったのは……?


「──」


 目を見開く。

 時間が再び息を吹き返し、凝縮されていた時が元に戻る。

 走馬灯というけれど、実際はこのようなものなのか。リリィと闘っていた時に見た走馬灯とは意味合いが違った。手を広げる。本は螺旋階段を継続させ、まるでドリルのような形態となって、僕に迫る。


 最後に彼女は何と言った。

 何を……開口した。入学して、半年と一ヶ月、三週間。時刻は夕日が綺麗な刻限。本の絢爛が人々を魅了し、深淵ともいえよう暗闇が支配する本湖最深部。田舎貴族にして蒼髪の僕は、彼女の最後の言葉を……。


 開口にして邂逅の言葉を、告げた。




「アズール図書館の司書」




 ※ ※ ※




「上の上だよ、青少年」





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― 新着の感想 ―
[一言] 満点であろう相手に対して主人公はミスを連発していたんですよね。そりゃ口だけでしょう。主人公自身が分かっていることなのにこの話の流れは何なんでしょうか?自分に酔っているようにしか見えません。
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