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第六十八話

帝都アルテミスの宿屋は、昼の喧騒が遠のき、静かな午後の雰囲気に包まれていた。

窓から差し込む陽光が木製の床に暖かな模様を描き、暖炉の灰が薄暗い部屋に残る寂しさを漂わせていた。

私はベッドの端に座り、白いワンピースを着たまま、スカートに隠した狩猟刀の冷たい感触を意識していた。

紫の瞳が部屋をぼんやりと見回し、心の中には昨夜ロザンナとの密会が渦巻いていた。

彼女の赤い瞳、優しいキス、そして「ヘックスを倒す」という約束――それらが胸に残り、温かさと不安を同時に与えていた。

だが、今日の私は落ち着かなかった。

胸の奥に、言い知れぬ悪い予感が渦巻いていた。

「…ロザンナ、危なくない? ヘックス、強い?」と呟き、紫の瞳が窓の外の空を見つめた。

彼女が一人で戦う姿を想像すると、心が締め付けられた。

「…信じる。でも、不安」と呟き、足が自然と動いた。

不安に駆られ、拠点からこっそり抜け出す決意を固めた。

レオン、ガルド、ミリアが広間で昼食をとっている気配を感じ、「…気づかれないように」と心の中で念じ、扉を静かに開けた。

木製の床が微かに軋み、陽光が私の白銀の髪を照らした。

広間を覗くと、レオンが地図を広げ、ガルドがパンをかじり、ミリアが魔法書を読んでいた。誰も私に気づいていない。心が安堵し、「…行ける」と呟き、そっと外へ出た。

帝都の石畳を踏み、魔法研究施設へと足を向けた。

冷たい風が頬を撫で、市場の喧騒が遠くに聞こえ、心はロザンナへの想いと不安でいっぱいだった。


しばらく歩くと、魔法研究施設の巨大な石造りの建物が視界に入った。

高い塔が空にそびえ、灰色の壁に蔦が絡まる姿は威圧的だった。門前に立つ警備兵が私を止め、「お前、誰だ? 立ち入り禁止だ」と低い声で言った。

心臓が跳ね、「…危ない?」と呟き、紫の瞳が鋭くなった。だが、一人の警備兵が私の顔をじっと見つめ、「…お前、前に来た子だな。リリィだっけ?」と記憶を辿った。胸が安堵し、「…覚えててくれた」と呟いた。

咄嗟に言葉を紡いだ。

「…以前殺された研究者の再調査に来た」と伝える。声は小さかったが、警備兵が頷き

「ならいい。門を開けるよ。気をつけろ」と言い、鉄の門をあっさり開けてくれた。

心が軽くなり、「…入れた」と呟き、施設の中へ足を踏み入れた。

石の廊下は冷たく、蛍光灯の青白い光が壁に不気味な影を投げかけていた。

研究者の白衣が忙しなく動き回り、静寂に機械の低い音が混じる雰囲気だった。


施設の中を歩いていると、突然奥から低い爆発音が響いた。床が微かに震え、壁にかけられたガラス瓶がカタカタと鳴った。

心が跳ね、「…何!?」と呟き、紫の瞳が鋭くなった。

研究者たちが慌てて逃げ惑う姿が見え、叫び声が廊下に響いた。

胸が締め付けられ、「…危険。でも、ロザンナ?」と呟き、流れに逆らうように奥へ駆け抜けた。

石の床に足音が反響し、白いワンピースが風に揺れた。

狩猟刀の感触が太ももで確認でき、戦う覚悟が湧いた。

広大な広間に到着すると、異様な光景が広がっていた。

月明かりが大きな窓から差し込み、冷たい空気が部屋を満たしていた。

中央には、体が肥大化し、人間の原型を留めていない怪物――ヘックスがいた。

筋肉が異様に膨張し、緑色の皮膚が裂けそうに張り、赤黒い目が狂気を宿していた。

対峙するように、ロザンナがハルバートを手に優雅に立っていた。

彼女の黒髪が風に舞い、赤い瞳が鋭く光った。

心が温かくなり、「…姉さん、生きてた」と安堵したが、すぐに緊張が戻った。


思わず狩猟刀を手に持とうとした瞬間、ロザンナが一瞬だけ視線をこちらに向けた。

赤い瞳が静かに私を捉え、その意図が伝わった。


「…気を引く。私の不意打ち?」と呟き、紫の瞳に決意が宿った。

心がドキドキし、「…分かった。やる」と呟いた。

ロザンナがハルバートを構え、ヘックスに向かって跳躍した。

金属音が広間に響き、戦いが始まった。

ヘックスが巨大な腕を振り下ろし、ロザンナがそれをハルバートで弾いた。

火花が散り、石の床に亀裂が走った。

ロザンナが素早く横に移動し、ヘックスの脇腹を斬りつけた。緑色の血が飛び散り、怪物が咆哮を上げた。

心が緊張で締め付けられ、「…強い。でも、危ない」と呟いた。

気配を消し、広間の柱に沿って天井へ登った。

ミリアから教わった大火力の魔法を思い出し、「…炎の玉。準備」と呟き、魔力を集中した。

冷たい石の表面を手に感じながら、静かに呪文を紡いだ。


ロザンナとヘックスの戦いは一進一退だった。ハルバートがヘックスの腕を切り裂き、怪物が反撃でロザンナを壁に押し付けた。石が砕け、埃が広間に舞った。

心が焦り、「…姉さん!危ない!」と呟いたが、魔法の準備が整った。

巨大な炎の玉が私の手元に形成され、熱気が頬を焼いた。ロザンナがハルバートを振り上げ、ヘックスの顎を鋭くかち上げた。

怪物の頭が天井を向いた瞬間を逃さず、「…今!」と呟き、炎の玉を正確に頭頂部へ直撃させた。

轟音が広間に響き、炎がヘックスの頭を包んだ。緑色の皮膚が焼け、異臭が鼻を突いた。

だが、怪物は動きを止めず、太い腕をロザンナへ振り下ろした。

心が凍り、「…効かない!?」と呟いた。

咄嗟に天井から飛び降り、落下の勢いを利用した。

スカートから狩猟刀を抜き、刃を握る手に力を込めた。

風を切る音が耳に届き、ヘックスの背中に深く切り裂いた。

緑色の血が飛び散り、怪物が雄叫びを上げた。

痛みに耐え、よろめくヘックスの背中に、ロザンナがハルバートを振り下ろした。

刃が私の刀傷を沿うように突き刺さり、骨が砕ける音が響いた。


ロザンナがハルバートを振り切った瞬間、ヘックスの体が縦に真っ二つに裂けた。

緑色の血が広間に飛び散り、怪物は倒れ込み、生命反応が消えた。石の床に重い音が響き、埃が舞った。

心が安堵と疲労で満たされ、「…終わり?」と呟いた。

紫の瞳がロザンナを見た。彼女の黒髪が汗で濡れ、赤い瞳が私を優しく捉えた。ハルバートを地面に突き立て、息を整える姿が頼もしかった。


突然、広間の扉が開き、警備兵たちが駆け込んできた。鉄の鎧が月光に反射し、剣を構えた姿が威圧的だった。

心が緊張し、「…バレた?」と呟いた。ロザンナが優雅に立ち、赤い瞳で警備兵を見た。

「研究者のヘックスが魔法を暴走させ、異形の怪物になり周りの人たちを襲い始めた。施設の人間を守るために、我々が仕方なく倒した」と冷静に説明した。

警備兵たちが互いに顔を見合わせ、納得した様子で剣を下ろした。


警備兵の一人が私とロザンナの顔をじっと見つめ、「…同じ顔? 双子か?」と驚いた声で尋ねた。心が少し緊張した。

「…バレる?」と呟き、紫の瞳がロザンナを見た。

彼女がクスクスと笑い、「私はリリィの双子の姉、ロザンナです、心配はいりません」と優雅に頭を下げた。

警備兵が頷き、「ならいい。片付けは任せる」と言い、帰っていった。

広間の月光が私たちを照らし、緑色の血が石の床に不気味な模様を描いていた。

ロザンナと一緒に拠点へ戻った。石畳の通りを歩く間、彼女の気配が私の心を支えた。

宿屋に着くと、広間でレオン、ガルド、ミリアが待っていた。

レオンが「リリィ! 勝手に抜け出すな!」と叱り、ガルドが「危ねえだろ、クソッ!」と叫んだ。

ミリアが「リリィちゃん、大丈夫!?」と駆け寄り、緑の瞳で私の顔を覗き込んだ。

胸が温かくなり、「…ごめん。でも、倒した」と呟いた。


レオンが驚いた顔で私を見、「…ヘックスを? よくやった」と褒め、ガルドが「さすがリリィ! だが、次は俺に任せろよ!」と笑った。

ミリアが「リリィちゃん、勇敢だったね。びっくりしたけど、誇らしいよ」と微笑んだ。

心が安堵し、「…仲間、ありがとう」と呟いた。


ロザンナの赤い瞳が私を見つめ、双子としての絆が深まった。窓の外の月光が部屋を満たし、未来への希望が芽生えた。

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